生命保険は、相続対策として有効な制度の一つです。死亡保険金は遺産分割の対象になりにくいこと、預金凍結措置への備えになること、高齢配偶者への生活保障として役立つことなど、生命保険の活用は有用です。
さらにもう一つ、生命保険には重要な特徴があります。それは保険金受取人を変更できるという点です。
生命保険の受取人は変更できる
民法では、保険金受取人の変更は民法上遺言事項として明記されていません。しかし現在の保険法では、一定の場合には遺言によって受取人を変更することも可能とされています。
生命保険では、契約時に配偶者、子、親族などを保険金受取人として指定します。
しかし、家族関係は時間とともに変化します。たとえば、離婚や再婚、子との関係が変わったり、面倒をみてくれる人が変わったりというケースです。
保険契約者は、保険事故が発生する前であれば、受取人を変更できる仕組みになっています。
遺言による保険金受取人の変更
現在の保険法では、一定の条件のもとで、遺言によって生命保険金受取人を変更することが認められています。これは高齢化社会の進行を背景として、遺言を利用した柔軟な財産承継を可能にするためです。
たとえば、長年連れ添った内縁配偶者に保険金を残したい、特定の子に生活資金を渡したい、公益法人等へ財産を役立てたいと考える人もいます。
しかし、保険契約時には受取人変更が難しい事情がある場合もあります。そのようなときに、遺言による変更が選択肢となることがあります。
内縁配偶者へ財産を残したいケース
法律上は婚姻していないが、長年夫婦同然に暮らしているというケースです。
内縁配偶者には、法律上の相続権はありません。そのため、遺言がなければ、原則として財産を相続できません。
しかし、生命保険を活用することで、内縁配偶者へ一定の財産を渡せる可能性があります。特に、遺言による保険金受取人変更を利用すれば、死亡保険金を内縁配偶者へ承継させられる場合があります。
高齢化社会では、再婚をしていない、籍を入れていない、家族関係が複雑という事情も少なくなく、生命保険と遺言を組み合わせた対策は、以前より重要になっています。
遺言による受取人変更の注意点
もっとも、遺言による受取人変更には注意点もあります。
生命保険は、保険会社との契約です。そのため、遺言を書いただけで自動的に全てが解決するわけではありません。保険法では、遺言による受取人変更があった場合には、相続人がその内容を保険会社へ通知しなければ、保険会社に対して主張できないとされています。
つまり、遺言に書いてあったのに、保険会社が知らなかったというケースでは、問題が起こる可能性があるということです。
さらに注意が必要なのは、遺言による変更手続が行われる前に、従来の受取人が保険金請求をしてしまうケースです。
保険会社が旧受取人へ支払ってしまった場合、保険会社に再度支払いを求めることは難しくなります。旧受取人と遺言で指定された新受取人とのあいだで深刻な対立に発展してしまうことが予想されます。生命保険はすぐに現金化できる財産であるため、感情的な争いが起きやすい分野でもあるのです。
遺言執行者を定めておく重要性
以上のようなトラブルを防ぐために重要なのは遺言執行者です。
遺言執行者とは、遺言内容を実現する人のことです。
遺言執行者を定めておけば、保険会社への通知から必要書類の提出、相続人との調整などを進めやすくなります。
特に、相続人同士が不仲である、内縁配偶者がいる、再婚家庭である、子ども同志の関係が複雑であるというようなケースでは、遺言執行者の存在が非常に重要になります。
元気なうちに認知症対策を
高齢者の相続では、認知症になる前に、どこまで準備しておけるかが課題になります。
認知症によって判断能力が低下すると、新しい契約や財産処分、受取人変更などが難しくなることがあります。
そのため、元気なうちに、遺言や生命保険、家族信託、任意後見などを組み合わせて準備しておくことがとても重要です。
特に生命保険は、誰にお金を渡したいのかを比較的明確に決めやすい制度です。その特徴を活用することで、残された家族の生活を守りやすくなります。
相続対策に生命保険を活用
相続対策は、誰に、どのように、どの財産を、どのタイミングで残すのかを考えることからはじまります。
生命保険には、受取人を指定できる、比較的早く支払われる、遺産分割の影響を受けにくい、という特徴があります。さらに、遺言と組み合わせることで、より柔軟な財産承継を考えられる場合もあります。
老老相続や認知症リスクが現実的な問題となっている現在社会、生命保険も含めた総合的な相続対策を検討することが重要になっています。
死亡保険金は遺産分割の対象になりにくいこと、預金凍結対策として役立つこと、遺言による受取人変更が可能な場合があることという特徴から、生命保険が有用です。
生命保険を利用した相続対策には注意点もあり、他の相続人との公平性や相続人以外を受取人とした場合のこと、孫を受取人にした場合のこと、特別受益との関係など、問題にされることもあります。
生命保険金は受取人固有の財産が原則
生命保険金は、原則として受取人固有の財産と考えられています。つまり、被相続人の遺産そのものではなく、保険契約によって受取人が取得する財産という扱いになります。
そのため、通常は遺産分割協議の対象になりません。
たとえば、妻を受取人に指定していた、長男を受取人に指定していたという場合には、その受取人が単独で保険金を受け取れる可能性があります。
これは、生命保険の大きな特徴です。
しかし一方で、特定の相続人だけが大きな利益を受けるという結果になることもあります。
他の相続人との不公平感
たとえば、長男だけが多額の生命保険金を受け取った、他の相続人にはほとんど財産がない、被相続人が生前から長男を特別扱いしていたという場合、他の相続人が強い不公平感を持つことがあります。
そこで問題となるのが、特別受益です。特別受益とは、特定の相続人が生前贈与などによって特別な利益を受けていた場合に、その分を相続計算に反映させる考え方です。
生命保険金についても、実質的には特別な利益ではないかと争われることがあります。
生命保険金は特別受益にあたらない
生命保険金は、原則として特別受益にはあたらないと考えられています。
最高裁判所も、死亡保険金は受取人固有の財産であるという考え方を示しています。
ただし、保険金が極端に高額、遺産相続とのバランスを大きく欠く、一人だけが著しく利益を受けているなどの場合には、例外的に問題となる可能性があります。
つまり、生命保険だから絶対に争いにならないとは言い切れません。
相続人ではない人を受取人にするケース
相続人ではない人を受取人にするケースも注意が必要です。
たとえば、孫を受取人にするケースです。教育資金を残したい、障害のある孫を支えたい、特に面倒をみてくれた孫へ感謝を示したいという考えも多いようです。
しかし、本来、孫は相続人ではありませんので、なぜ孫だけが受け取るのかという不満が出ないこともありません。子ども同士の関係が悪かったり、再婚家庭であったり、前妻の子と後妻の家族がいたりなど、感情的な対立につながることがあります。
生命保険は現金で支払われるため、誰がいくら受け取ったのかが非常にわかりやすく、不公平感を強く感じる人もいます。
揉めないための設計を
生命保険を相続対策として使う場合、誰を受取人にするかだけでなく、なぜそのようにするのかを家族に説明しておくとよいでしょう。説明がまったくないままに相続がはじまってしまうと、勝手に決められたと不平が出てきてしまうかもしれません。
そして、生命保険だけで全ての相続問題を解決できるわけではありませんから、不動産や預金、株式、事業承継など、他の財産とのバランスも考える必要があります。
そのため、遺言書、家族信託、任意後見、生前贈与などと組み合わせて全体設計をするのがおすすめです。
特に老老相続では、高齢者配偶者への生活保障、認知症対策、介護費用、相続人間の公平性など、考えるべき問題が多くなります。
生命保険は非常に便利な制度ですが、受取人を指定したり、単独請求ができたり、早期に現金化できたりという大きなメリットがある一方で、特定の人への偏った承継、他の相続人との不公平感を生む可能性もあります。
生命保険が有用なことは間違いありませんが、争いの対策にも原因にもなりえますので、誰に、どのような目的で残すのかを慎重に検討する必要があります。生命保険だけではなく、遺言や家族全体の財産設計も含めて、総合的に相続対策を考えることが重要になるでしょう。
高齢夫婦の課題として、当然に配偶者も高齢であることが多く、さらにその後の二次相続まで見据えて準備をしておかなければなりません。そのような場合に検討されることがある制度の一つが「養子縁組」です。
養子縁組というと、子どもを迎えるための制度ですが、実際に相続や財産承継を見据えて行われることもあります。
養子縁組は相続人を変える制度
養子縁組をすると、養子は法律上の子となります。相続においても実子と同じ立場になるため、相続権を持つことになります。この点が非常に重要です。
養子縁組は単に戸籍上の手続ではなく、相続人の範囲そのものを変える効果を持っています。
たとえば、子どものいない夫婦で夫が亡くなった場合を考えてみましょう。
夫に子どもがいない場合、配偶者である妻は相続人になりますが、それだけではありません。夫の父母が健在であれば父母も相続人になります。父母が既に亡くなっている場合には、夫の兄弟姉妹が相続人となります。
ところが、生前に養子縁組をしていた場合には状況が変わります。
養子は法律上の子となるため、第一順位の相続人になります。その結果、妻、養子が相続人となり、父母や兄弟姉妹は相続人になりません。つまり、養子縁組によって相続人の顔ぶれが変わることがあるのです。
老老相続では兄弟姉妹相続が問題になることがある
老老相続では、兄弟姉妹が相続人となるケースが少なくありません。子どものいない夫婦の場合、夫婦のどちらかが亡くなると、配偶者だけでなく兄弟姉妹も相続人になる可能性があります。
兄弟姉妹相続が発生すると、以下のような問題が生じることがあります。
- 相続人の人数が増える
- 遠方に住んでいる相続人がいる
- 高齢の相続人がいる
- 連絡が取れない相続人がいる
遺産分割協議を行うためには相続人全員の参加が必要です。そのため、兄弟姉妹が複数いる場合には手続が長期化することもあります。養子縁組は、このような相続関係に変化を与える制度として利用されることがあります。
養子縁組によって法定相続分も変わる
養子縁組によって変わるのは相続人だけではありません。法定相続分にも影響します。
たとえば、相続人が配偶者だけであれば、配偶者がすべての財産を相続することができます。
しかし養子がいる場合には、配偶者、養子が共同相続人となります。
この場合の法定相続分は、配偶者が2分の1、養子が2分の1です。
また、実子がいる家庭で養子縁組を行った場合には、実子と養子は同じ割合で相続します。
たとえば、配偶者、実子1人、養子1人の場合には、配偶者が2分の1、実子が4分の1、養子が4分の1となります。
養子縁組は法律上の親子関係を作る制度ですから、相続割合にも直接影響するのです。
遺留分にも影響が生じる
養子は相続権だけでなく、遺留分についても実子と同じ権利を持ちます。そのため、養子縁組を行うと遺留分の計算にも影響が出てきます。
たとえば、「長男にすべての財産を相続させる」という遺言があっても、他の相続人には遺留分が認められる場合があります。養子も実子と同様に遺留分権利者となるため、養子縁組によって遺留分を主張できる人が増えることがあります。
逆にいえば、養子縁組を行うことによって、これまで想定していなかった遺留分の問題が生じる可能性もあります。
遺言書を作成する際には、養子縁組による影響も考慮しておく必要があります。
養子縁組は相続対策として行われることもある
養子縁組は本来、法律上の親子関係を作る制度です。しかし実務では、老後の扶養や財産承継を見据えて利用されることがあります。
- 長年世話をしてくれている親族に財産を承継したい
- 子どもがいないため承継先を確保したい
- 兄弟姉妹相続を避けたい
たとえば、以上のような理由から養子縁組を検討されることがあります。
もっとも、養子縁組をすれば必ず希望どおりの相続になるわけではありません。養子となった人には相続権だけでなく遺留分も認められますし、他の親族との関係にも影響を与える可能性があります。
そのため、養子縁組は単なる相続対策として考えるのではなく、家族関係全体への影響も踏まえて慎重に検討する必要があります。