限定承認とは
相続が発生すると、相続人は故人(被相続人)の財産だけでなく、借金や保証債務などの「負の遺産」も引き継ぐ可能性があります。このとき、相続人は次の三つの選択肢の中から一つを選ぶことができます。
- 単純承認(すべてを相続する)
- 相続放棄(何も相続しない)
- 限定承認(プラスの財産の範囲内でマイナスの債務を引き継ぐ)
限定承認は、この中で最も「中間的」な選択肢です。
借金があるかどうか不明な場合、またはプラス財産とマイナス財産の差がわからない場合に、慎重に財産を調査したうえで、万一債務超過であったとしても相続人自身の生活を守るために利用される制度です。
限定承認が設けられた背景
かつての日本の相続制度(旧民法)では、「家督相続」といって長男などがすべての相続を受け継ぐ仕組みでした。この家督相続人には、相続放棄の自由がなかったため、借金もすべて背負うリスクがありました。
そこで、たとえ家族の代表として相続を受けても、「相続した財産の範囲を超えて債務を負わない」という考え方を導入する必要が生じ、現在の限定承認制度が誕生したのです。
限定承認が有効なケース
限定承認が特に有効となるのは、以下のようなケースです。
- 財産がプラスかマイナスか微妙なとき
- 借金の存在は知っているが、どこまであるか不明なとき
- 保証人としての責任を突然負わされる恐れがあるとき
- 故人が営んでいた事業を、相続人が継続したい場合
また、限定承認をすることで、万が一債務超過だった場合でも、相続人自身の財産から弁済する義務はありません。
限定承認の効果
限定承認を行うと、相続人は被相続人のプラス財産を一旦「清算」します。その後、残った財産があればそれを取得します。逆に、マイナスの債務が多くても、プラスの財産を限度としてしか返済義務は負いません。
これにより、相続人は自己の財産を守りながら相続に対応できるのです。
他の承認方法との比較
承認方法 | 債務の扱い | 相続財産の取得 | 特徴 |
---|---|---|---|
単純承認 | すべて引き継ぐ | すべて取得 | 手続不要だが債務も負担 |
放棄 | 一切引き継がない | 何も取得しない | 最もシンプルだが一切の権利なし |
限定承認 | 財産の範囲内で債務負担 | 財産清算後、残りを取得 | 清算主義によるバランス型 |
利用の少なさと今後の可能性
限定承認は、理論上とても有用な制度ですが、実際に利用されることは多くありません。理由としては、次のような点が挙げられます:
- 手続が煩雑(共同相続人全員の同意が必要)
- 裁判所への申立、財産目録の作成など負担が大きい
- 実務上の取り扱いに慣れていない専門家も多い
しかし、近年では負債を抱えた高齢者の相続や、保証人責任のトラブル回避のために、限定承認を検討する場面が増えてきています。