相続の効力とは、被相続人の財産や権利・義務が相続人にどのように移転されるか、その影響や法律的な効力が発生することです。相続の効力には、法律で定められた権利義務の承継や、相続人の権利の範囲、相続財産の分割などが含まれます。
相続の一般的効力
第896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
相続人は相続が開始すると、被相続人の財産について、すべての権利義務を相続します(包括承継といいます)。すべての権利義務というのは、預貯金や不動産はもちろん、被相続人に借金があった場合に、借金を弁済する権利義務も相続するということになります。さらに、財産法上の法的地位やそれにかかわる事情も含まれます。たとえば、売買契約の売主で契約の債務を果たしていなかった場合に、相続人は契約上の地位を承継して、売主として買主との関係を引き継ぎます。
ただし、権利義務の性質上、被相続人しか持つことができないもの(被相続人の一身に専属したもの)は、権利義務から除かれます。被相続人しか持つことができないものとは、親権や扶養義務、代理権、雇用の権利や義務、資格、生活保護の権利、公営住宅の使用権などです。
なお、ゴルフクラブの会員権の扱いは、会則などに会員としての相続に関する規定がなくても、会員としての地位の譲渡に関する規定がある場合には、その規定に準じた手続きによって、会員としての地位を承継できるという判例があります(最三小判平成9年3月25日)。
被相続人の死亡を原因としても契約または法の規定によって相続人である者が固有の権利として取得するものは、本条の一切の権利義務に含まれません。なぜなら、固有の権利は相続財産ではないからです。
死亡退職金や生命保険の相続
死亡退職金とは、従業員の死亡に際し勤務先から支払われる退職金ですが、受け取る権利を持つ者の範囲や順位が定められています。判例では、勤務先の規定に基づいて支給された死亡退職金について、受給者である遺族が自己固有の権利として取得するとしました(最一小判昭和55年11月27日)。また、退職金支給の規定がない財団法人が支給した死亡退職金についても、財団法人の規定に基づいて支給同様に受給者である遺族が自己固有の権利として取得するとしました(最三小判昭和62年3月3日)。
生命保険については、保険金の受取人を遺族のうちの特定の者が指定されていた場合には、その指定された者が固有の権利として生命保険金を取得します。判例で、生命保険金の受取人に『相続人』という指定があった場合にも、相続人は固有の権利として生命保険金を取得しています(最三小判昭和40年2月2日)。このとき、相続人が複数あった場合に、『相続人』という指定は民法427条にいう『別段の意思表示』にあたるとして、各相続人は相続分の割合によって保険金請求権を取得するとしました(最二小判平成6年7月18日)。
また、保険金受取人の指定がされていない損害保険契約で『保険金受取人の指定がないときは、保険金を被保険者の相続人に支払う』という旨の約款条項により保険金が支払われた判例(最二小判昭和48年6月29日)がありますが、受取人は原則、固有の権利として保険金を取得すると解されています。
相続の効力の主な内容
プラスの財産とマイナスの財産
相続人は、被相続人が持っていた財産だけでなく負債も同様に引き継ぎます。そのため、相続する財産よりも負債が多い場合には、相続放棄や限定承認を検討することが多いでしょう。
相続分
各相続人の権利の範囲(相続分)は、民法で定められた法定相続分や、被相続人が残した遺言書による指定相続分にもとづいて決定します。法定相続分は相続人の関係によって異なり、遺言書がある場合には、その内容が優先されます。遺言書に分割割合が記されていても、相続人全員が合意することで遺言書の内容とは異なる分割をすることも可能です。
遺産分割の効力
相続財産は相続人らの話し合い(遺産分割協議)によって分割されますが、分割の前であっても法的な効力はすでに生じています。遺産分割が行われると、各相続人が相続財産を単独で所有することになります。遺産分割後は、相続財産の各部分についての権利が確定します。
相続放棄・限定承認の効力
相続人が相続放棄を行うと、その相続人ははじめから相続人でなかったとみなされ、被相続人の財産や負債を一切引き継ぎません。また、限定承認を行う場合は、相続した財産の範囲内でのみ負債を支払う義務を負うことになります。これらは相続開始を知った日から3か月以内に行う必要があり、家庭裁判所で手続きします。
相続の効力の例外
生前贈与などの特別な受益がある相続人がいる場合は、特別受益分を相続分から控除する調整が行われます。
さらに、被相続人の財産の維持や増加において、特に貢献した相続人がいる場合、その相続人の寄与分を加味して相続分を算出することもあります。
共同相続の効力
第898条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
本条は、相続の開始から遺産分割までの共同相続人間の関係についてを定めています。
相続人が一人の場合は、被相続人の相続財産は単独で承継します。しかし相続人が複数人いる場合には、相続財産を全員が共有することになります。
遺言を残さなかった場合や遺言に残されていない相続財産がある場合は、遺産分割協議という相続人間での話し合いをすることになります。
相続財産の管理
共同相続財産の管理は、以下のような物権編の共有の管理規定によります。
- 相続財産の保存行為は各相続人が単独ですることができる
保存行為とは、財産の状態を維持する行為のことです。たとえば、家屋の修理費や諸経費、相続人全員を名義人とする不動産登記、金融機関への被相続人名義の口座に関する取引経過の開示請求などです。 - 各相続人は相続財産の全部について、相続分に応じた使用ができる
- その他の管理に関しては、相続分の割合にしたがい多数決で決定する
その他の管理とは、財産を利用・改良する行為のことです。たとえば、資料の取り立て、賃借契約の解除などのことです。 - 相続財産に変更を加え、または処分する場合には、他の相続人の同意を得る必要がある管理にかかる費用は相続分に応じて負担するものとされる
- 管理にかかる費用は相続分に応じて負担するものとされる
※ただし、すべてにおいて物権編の共有の管理の規定にしたがうというわけではありません。
遺産分割協議が終わるまでの間、土地や不動産などについて費用がかかったり、保険料や修理費などの諸経費が発生したりする場合があります。そのような場合の管理について、共同相続人間でスムーズに合意ができれば問題ありませんが、なかなか合意ができない場合にどう精算するかが問題になります。
相続財産に関する費用というのは、民法885条で規定されています。
第885条 相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。ただし、相続人の過失によるものは、この限りでない。
相続財産に関する費用は、前述と重複しますが、固定資産税、火災保険料、修繕費、遺産の保全費用、鑑定費用などが含まれます。通常、相続財産を承継した相続人が、どう支払いをするかを決定します。しかし、相続放棄や限定承認の場合に、相続人が存在しない相続財産となり、それら費用を支払う人がいない状態になります。その場合に、相続財産から費用を支払うというのが本条の規定です。
そのため、相続人が複数ある場合には、相続財産に関する費用を支払った相続人が、他の共同相続人に対し費用の償還請求をすることができます。
参考(物権編の共有の規定)
少し長いですが、物権の共有の第251条から第253条を掲載します。
第251条
1.各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
2.共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
第252条
1.共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第1項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。) は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
2.裁判所は、次の各号に掲げるときは、当該各号に規定する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。
(1)共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
(2)共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。
3.前二項の規定による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
4.共有者は、前三項の規定により、共有物に、次の各号に掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下この項において「賃借権等」という。)であって、当該各号に定める期間を超えないものを設定することができる。
(1)樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 十年
(2)前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 五年
(3)建物の賃借権等 三年
(4)動産の賃借権等 六箇月
5.各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。
第253条
1.各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
2.共有者が一年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。