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相続は越谷の美馬克康司法書士・行政書士事務所 相続ガイド《承認・限定承認・放棄の基本》

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相続の承認と放棄

相続の承認と放棄とは、被相続人の遺産を受け継ぐかどうかを相続人が選択できる制度です。すべてを引き継ぐ「単純承認」、財産と負債を限定的に引き継ぐ「限定承認」、一切受け取らない「相続放棄」があります。遺産の承認と放棄についてを解説しています。

01承認・限定承認・放棄の基本

相続とは、人が亡くなったときに、その人が所有していた財産や借金を、一定の親族が引き継ぐ制度です。民法882条によって、相続は被相続人(亡くなった人)の死亡と同時に当然に開始されます。つまり、何か手続きをしなくても、自動的に「相続のスタート」が切られてしまうのです。

しかし、引き継がれるのは財産だけではありません。借金や未払いの税金など、マイナスの財産も含まれます。こうした相続財産全体を無条件で受け継ぐ方法を「単純承認」と言います。一方で、プラスの財産の範囲内でのみ借金などのマイナス財産も責任を負う「限定承認」、あるいは相続そのものを放棄する「相続放棄」という選択肢もあります。

被相続人に大きな借金があると分かっていれば、単純承認を選んでしまうのは危険です。後から借金の存在を知って、すでに承認したとされると、取り返しがつかなくなることもあります。そこで重要になるのが、相続人がどの選択をするかを決める「熟慮期間」の考え方です。

相続の承認・放棄の選択期限(熟慮期間)

民法915条では、相続人は自己のために相続が開始されたことを知った日から3ヶ月以内に、「単純承認」「限定承認」「放棄」のいずれかを選ばなければなりません。この3ヶ月間がいわゆる「熟慮期間」と呼ばれるもので、熟慮期間の間に何も行動しないと、自動的に単純承認をしたとみなされます(民法921条2号)。

民法915条
1. 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2. 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

民法921条2項
相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

たとえば、被相続人が亡くなり、自分が相続人であると知った日が4月1日だとすると、その日から起算して6月30日までに相続の方針を決めて手続きをとる必要があります。相続放棄や限定承認をしたい場合は、家庭裁判所に対して申述しなければなりません。

ただし、家庭裁判所に申請して期間の延長が認められれば、この3ヶ月の期限を延ばすことも可能です。相続財産の内容が複雑で、借金があるのかどうかすぐには分からないような場合には、必ず早めに延長申請を行うのが大切です。

相続放棄の判断と期限の起算点

民法915条の3ヶ月という期限は、単純に「被相続人が死亡した日」から数えるわけではありません。重要なのは、「自己のために相続が開始したことを知った時点」です。つまり、被相続人が亡くなった事実だけでなく、「自分が相続人である」と知ったときからカウントされるのです。

また、民法916条では「例外的に期間の起算点が遅れる場合」が認められています。たとえば、相続人が相続財産の存在をまったく知らず、しかも被相続人との交流もなかったような場合です。このようなときは、「相続財産の存在と内容を具体的に知ったとき」から3ヶ月以内に手続きを行えば足りるとされています。

ただし、少しでも被相続人に財産があると知っていた場合や、生活費を受け取っていたような事実があれば、原則通りの起算となる可能性が高くなります。これについては判例も多数あり、消極的な姿勢でいたことが必ずしも「知らなかった」と評価されるとは限らないので注意が必要です。

民法916条
相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

限定承認の手続きと注意点

限定承認とは、被相続人の財産の範囲内でのみ債務を支払うという制度です。つまり、借金があってもプラスの財産の範囲内でしか支払わないという条件付きで相続をすることができます。限定承認は「家族全員が一緒にする」ことが前提で、相続人の一人でも単純承認や放棄をしていた場合、他の人が単独で限定承認を行うことはできません。

このように限定承認にはメリットがある一方で、手続きが煩雑であり、事後的に借金が増えていく可能性があるようなケースでは適用が難しくなることもあります。限定承認を選ぶ場合には、専門家のアドバイスを得るのが望ましいでしょう。

再転相続と選択の継続性

被相続人Bが亡くなり、その相続人Aも選択をしないまま亡くなったような場合、次にCが相続人になります。これを「再転相続」と言います(民法915条・917条)。この場合、CはB→Cへの相続だけでなく、B→Aの相続についても承認や放棄の選択をすることができます。

たとえば、CがBの相続を放棄した場合でも、AがすでにBの相続を承認していたら、CはA→Cの相続について責任を負う可能性があります。したがって、再転相続では「前の相続人の判断」も確認しておく必要があるのです。

また、Cが未成年や成年被後見人である場合には、民法917条の規定により、法定代理人が「相続の開始があったことを知った時」から熟慮期間を計算することになります。

民法917条
相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第915条第1項の期間は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

02承認・放棄の撤回と取消しのルール

相続財産の管理義務

相続が始まったとき、相続人は財産を引き継ぐかどうかに関わらず、相続財産をしっかりと管理する義務を負います。民法918条はこれを定めています。

ここでいう「管理」とは、たとえば不動産を放置せず維持したり、現金を安全に保管したり、あるいは価値を保つための必要な手続きを行うことを意味します。ただし、この義務は無制限に続くわけではなく、相続を承認・放棄するまでの一時的なもので、相続の意思表示をすることでその管理義務は原則として終了します。

しかし、家庭裁判所が相続財産管理人を選任した場合には、その者が代わって管理義務を負うことになります。また、相続人の行動が遅れることで損失が出る恐れがあるときなどは、裁判所が保存処分の命令を出すことも可能です。

民法918条
相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。

承認・放棄の撤回と取消

相続においては、いったん「単純承認」「限定承認」「相続放棄」のいずれかの意思表示を行うと、それを後から変えることは原則できません。これは民法919条1項に定められています。つまり、一度放棄した後に「やっぱり相続します」とは言えない、というのが基本ルールです。

ですが、特別な理由があれば「撤回」や「取消し」が認められる場合があります。

民法919条
1. 相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない。
2. 前項の規定は、第1編及び前編の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
3. 前項の取消権は、追認をすることができる時から6箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から10年を経過したときも、同様とする。
4. 第2項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

熟慮期間内の撤回

撤回とは、まだ民法915条で定められた「3ヶ月の熟慮期間」内であれば、選択を変更できる制度です。たとえば、ある相続人が熟慮期間中に相続放棄の届け出をしたけれど、「やはり財産もあるらしいので承認に変えたい」と考えた場合、撤回が認められる余地があります。

この撤回は、915条の3ヶ月以内に行わなければなりません。しかも、一度放棄などをしたことが他の相続人に知られ、それに影響を与えている場合には、撤回が制限されることもあります。

相続放棄の取消し

撤回とは異なり、「取消し」はすでに効力が発生した承認や放棄について、後から無効を主張するものです。たとえば、次のような場合が典型です。

  • 他人にだまされて放棄を届け出てしまった(詐欺)
  • 誤解や勘違いによって誤った選択をしてしまった(錯誤)
  • 脅されてやむを得ず放棄した(強迫)

このような事情があるとき、相続人は家庭裁判所に申立てて、相続の承認または放棄を取り消すことができます。

取消しには「追認」されるまでに行う必要があり、原則として「6ヶ月以内」に手続きを行わなければなりません(民法921条の準用)。また、取消しが認められるには、単なる気持ちの変化では足りず、民法上の「無効原因」が明確に存在していなければなりません。

限定承認の取消しと制限

限定承認については、特に取消しが認められにくくなっています。なぜなら、限定承認は手続きが複雑で、相続人全員の合意が必要とされるため、その途中で一部の相続人が勝手に取り下げてしまうと、全体の公平が損なわれるおそれがあるからです。

そのため、民法919条4項では、限定承認または相続放棄の取消しをする場合には、家庭裁判所への申立てが必要であることが明記されています。つまり、口頭で「やっぱりやめた」と言うだけでは済まされないのです。

無効原因の具体例

たとえば、相続放棄の届出書に勝手に相続人の印鑑が押されていたようなケースでは「偽造」とされ、無効となる可能性があります。また、「兄が勝手に手続きしたが、私は何も知らなかった」といった場合に、その兄が他の相続人の同意を得ずに提出したなら、「同意欠如」による無効が認められることもあります。

さらに、最近の判例(平成29年民法改正以降)では、申述書の提出後であっても、誤った申述に基づいていた場合には取消しが認められる事例が増えてきています。

承認・放棄を取消したのちの対応

無効が認められて承認または放棄の効力が取り消されると、その相続人は「初めから選択していなかった」ものとして扱われ、再び承認か放棄かを選ぶことが可能になります。

ただし、取消しが認められたとしても、相続人としての権利を行使し直すには、相応の手続きや期限の制限があります。たとえば、取消しが遅れると、取り消したくても時効によって権利が消滅することもあります(10年で消滅するのが通例)。

03相続財産をそのまま引き継ぐ「単純承認」の効果とリスク

相続が発生すると、相続人には「承認」または「放棄」という選択が与えられます。その中でも「単純承認」は、最も基本的かつ原則的な相続方法です。単純承認とは、被相続人(亡くなった人)の財産や借金などを一切合切すべて無条件に受け継ぐことを意味します。

たとえば、父が亡くなり、自宅や預金といった財産が残されていた場合、それだけでなく住宅ローンなどの借金があっても、これをすべて「そのまま」受け継ぐのが単純承認です。相続人が何の手続きもしない場合、法律上は単純承認したとみなされます。

単純承認の法的効果

民法920条では、単純承認をした相続人は「無限に被相続人の権利義務を承継する」と定めています。つまり、被相続人が持っていた財産も借金も、良いものも悪いものも、すべてそのまま相続人のものになります。これは言い換えれば、被相続人が生前に抱えていた債務について、相続人が責任をもって返済義務を負うことを意味します。

単純承認を選ぶことで、自分が気づいていなかった借金が後から出てきたとしても、それを拒否することは原則できません。このため、単純承認には一定のリスクも伴います。

民法920条
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。でない。

法定単純承認とは

民法921条では、「明示的に単純承認の意思を示していないにもかかわらず、自動的に単純承認とみなされる行為」についても規定されています。これを「法定単純承認」と呼びます。

たとえば次のような場合は、本人に単純承認の意思がなくても、法律上は単純承認したものと扱われます。

  • 相続人が相続財産を全部または一部でも処分(売却や譲渡など)した場合
  • 限定承認や相続放棄の期限(通常は3ヶ月)を過ぎてしまった場合
  • 相続財産を隠したり、私的に使ってしまった場合

つまり、相続人が財産を勝手に使ったり売却した時点で、黙っていても「単純承認した」と法律上みなされてしまうのです。特に注意が必要なのは、相続開始から3ヶ月が経過したとき。この期間を「熟慮期間」と呼び、相続人はその間に、単純承認・限定承認・放棄のいずれかを選ばなければなりません。

民法921条
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
1. 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
2. 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
3. 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

法定単純承認の取消しや例外

ただし、一定の場合には法定単純承認が無効になることもあります。たとえば、相続人が相続財産の一部をうっかり処分してしまったが、それが債務の存在を知らずにした行為であった場合など、例外的に取り消しが認められることがあります。

また、心神喪失や詐欺・強迫によって意思表示がなされたときは、その意思表示自体が無効となり、単純承認の効力も否定される可能性があります。たとえば、「他の相続人から脅されてやむを得ず財産を使ってしまった」などの事情がある場合は、法定単純承認が否定されることもあります。

このように、行為の内容と背景によっては「知らずに承認してしまった」ことが法的に問題とされない場合もありますが、裁判所の判断が必要になります。

民法921条3項に関する補足(財産の隠匿・消費・記載漏れ)

民法921条3項では、相続人が「相続財産を隠したり、使ってしまったり、わざと相続財産を申告しなかった」場合にも単純承認とみなされるとしています。これは悪意ある行為に対する制裁的な意味合いが強い規定です。

たとえば、相続人が被相続人の預金を密かに引き出して使っていた場合、それが発覚すれば単純承認とみなされ、借金も含めたすべての相続義務を負わなければならなくなる可能性があります。

単純承認のリスクと注意点

単純承認は、相続の中ではもっともシンプルな選択肢です。しかし、だからといって軽い気持ちで行うと、後になって思わぬ負債を抱えることにもつながりかねません。

特に注意すべきなのは以下の点です。

  • 熟慮期間(3ヶ月)を過ぎると自動的に単純承認になる
  • 財産の一部を処分すると意思に関係なく単純承認とみなされる
  • 限定承認や放棄の申述には期限がある
  • 相続財産に関しては一切の義務も含めて承継する

相続が始まった際には、専門家に相談する、財産や債務の状況を早めに調査するなど、早期の対応が重要です。

04限定承認の意義と制度の目的

限定承認とは

相続が発生すると、相続人は故人(被相続人)の財産だけでなく、借金や保証債務などの「負の遺産」も引き継ぐ可能性があります。このとき、相続人は次の三つの選択肢の中から一つを選ぶことができます。

  1. 単純承認(すべてを相続する)
  2. 相続放棄(何も相続しない)
  3. 限定承認(プラスの財産の範囲内でマイナスの債務を引き継ぐ)

限定承認は、この中で最も「中間的」な選択肢です。

借金があるかどうか不明な場合、またはプラス財産とマイナス財産の差がわからない場合に、慎重に財産を調査したうえで、万一債務超過であったとしても相続人自身の生活を守るために利用される制度です。

限定承認が設けられた背景

かつての日本の相続制度(旧民法)では、「家督相続」といって長男などがすべての相続を受け継ぐ仕組みでした。この家督相続人には、相続放棄の自由がなかったため、借金もすべて背負うリスクがありました。

そこで、たとえ家族の代表として相続を受けても、「相続した財産の範囲を超えて債務を負わない」という考え方を導入する必要が生じ、現在の限定承認制度が誕生したのです。

限定承認が有効なケース

限定承認が特に有効となるのは、以下のようなケースです。

  • 財産がプラスかマイナスか微妙なとき
  • 借金の存在は知っているが、どこまであるか不明なとき
  • 保証人としての責任を突然負わされる恐れがあるとき
  • 故人が営んでいた事業を、相続人が継続したい場合

また、限定承認をすることで、万が一債務超過だった場合でも、相続人自身の財産から弁済する義務はありません。

限定承認の効果

限定承認を行うと、相続人は被相続人のプラス財産を一旦「清算」します。その後、残った財産があればそれを取得します。逆に、マイナスの債務が多くても、プラスの財産を限度としてしか返済義務は負いません。

これにより、相続人は自己の財産を守りながら相続に対応できるのです。

他の承認方法との比較

承認方法債務の扱い相続財産の取得特徴
単純承認すべて引き継ぐすべて取得手続不要だが債務も負担
放棄一切引き継がない何も取得しない最もシンプルだが一切の権利なし
限定承認財産の範囲内で債務負担財産清算後、残りを取得清算主義によるバランス型

利用の少なさと今後の可能性

限定承認は、理論上とても有用な制度ですが、実際に利用されることは多くありません。理由としては、次のような点が挙げられます:

  • 手続が煩雑(共同相続人全員の同意が必要)
  • 裁判所への申立、財産目録の作成など負担が大きい
  • 実務上の取り扱いに慣れていない専門家も多い

しかし、近年では負債を抱えた高齢者の相続や、保証人責任のトラブル回避のために、限定承認を検討する場面が増えてきています。

05限定承認の効果と手続き・管理義務と財産目録の作成

限定承認後の管理義務

相続人が限定承認を選んだとしても、すぐに自由に相続財産を使えるわけではありません。限定承認をした相続人には、「相続財産の管理義務」が課されることになります。
この管理義務とは、亡くなった人の遺産を自分の財産と同じように注意をもって管理し、勝手に処分したり使い込んだりしない義務のことです。

この義務は、単純承認や放棄と違って限定承認を選んだ者に特有の責任です。
債権者や他の利害関係者の利益を保護するためにも、この管理義務は非常に重視されます。

民法918条
相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。

財産目録の作成が義務化されている理由

限定承認を行った相続人は、家庭裁判所に対して「財産目録」を提出しなければなりません(民法924条、家事事件手続法201条等)。

この目録には、プラスの財産(不動産、預貯金、有価証券など)とマイナスの財産(借金、保証債務、未払金など)を正確に記載する必要があります。

財産目録の提出は、限定承認の効果を発生させるための必須手続きであり、これを怠ると限定承認が無効になるおそれすらあります。

民法924条
相続人は、限定承認をしようとするときは、第915条第1項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。

財産目録の作成手続きの流れ

  1. 遺産の全体像を調査する
    通帳、登記簿謄本、契約書などを用いて資産と負債をリストアップします。
  2. 評価を行う
    不動産や動産については、相応の評価額を算出します。税理士や不動産業者の協力が必要になることもあります。
  3. 家庭裁判所へ提出
    期限内(通常は申立てから1か月以内)に、所定の書式に従って財産目録を提出します。

管理義務の実態と責任

管理義務は単なる形式的な義務ではなく、違反した場合は損害賠償責任を負うことすらあります。

たとえば、財産の隠匿・浪費・不適切な処分をした場合、正確な財産目録を作成しなかった場合、債権者からの請求に誠実に対応しなかった場合です。
限定承認をした以上、「清算人としての役割」を果たすことが求められます。

債務弁済の優先順位と責任の範囲

限定承認を行った後、債務の弁済には優先順位があります。
民法ではこの手続きを整理しており、債権者や受遺者に対する対応を公平にする仕組みです。
この段階でのポイントは以下の通りです。

  • 弁済は相続財産の範囲内で行う(相続人の私財から払う必要はない)
  • すべての債権者に対して平等に処理する必要がある
  • 相続財産が不足する場合、債権者間で按分的な清算になる

第927条
1. 限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、2箇月を下ることができない。
2. 前項の規定による公告には、相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし、限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができない。
3. 限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者には、各別にその申出の催告をしなければならない。
4. 第1項の規定による公告は、官報に掲載してする。

第928条
限定承認者は、前条第1項の期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。

第929条
第927条第1項の期間が満了した後は、限定承認者は、相続財産をもって、その期間内に同項の申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に、それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。

第930条
1. 限定承認者は、弁済期にいたらない債権であっても、前条の規定に従って弁済をしなければならない。
2. 条件付きの債権又は存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済をしなければならない。

特別代理人の選任と非弁行為の禁止

限定承認に関わる手続きの中では、家庭裁判所によって「特別代理人」や「相続財産管理人」の選任が必要になる場合があります。これは、たとえば他の共同相続人と利害関係がある場合や、未成年の相続人がいる場合に必要となります。

また、限定承認手続きでは、非弁行為(弁護士資格のない者による法律行為)が問題になることもあるため、専門的な助言や書類作成には注意が必要です。

06限定承認の実務と共同相続人の扱い

限定承認後、相続人は財産の管理義務を負います。特に不動産や動産などの処分を行うには、家庭裁判所の許可が必要です(民法第928条など)。これは、勝手な処分によって債権者の利益が損なわれるのを防ぐためです。
ただし、債務返済や財産の維持管理のためにやむを得ず処分する場合、許可を得れば可能です。処分した財産の代金は、債権者への弁済に充てることになります。

また、債権者との間でトラブルが起きた場合には、裁判所による調整や裁定を受けることができます。相続人が誠実に義務を果たしていれば、たとえすべての債務を返済できなくても、責任を問われることはありません。

限定承認は全員の一致が原則

限定承認は、共同相続人が一人でも反対した場合、制度の利用ができません。民法923条により、共同相続人がいる場合、限定承認は相続人全員の共同でしなければならないと定められており、個別に単独で行うことはできないのです。

仮に一人でも単純承認をしてしまった場合、他の相続人が限定承認を希望していても、それは認められません。この点で、限定承認は非常に繊細な制度であり、相続人間での合意形成が不可欠です。

たとえば、被相続人に借金が多くあると知った相続人Aが限定承認をしたいと思っても、相続人Bが内容を理解せず単純承認してしまうと、限定承認は成立しません。その結果、すべての相続人が単純承認扱いとなり、借金を個人の財産で返済する義務が生じます。

民法923条
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

公告と債権者への弁済手続き

限定承認が受理されると、相続人は相続財産を管理し、債権者や受遺者に対して弁済を行う義務を負います。そのためには、まず官報に公告を行い、一定期間内に債権者に申し出を促す必要があります。

この公告期間は2か月以上で、民法第927条〜第935条の規定に従って債権者の申し出を受け付け、優先順位に従って弁済します。相続財産が不足する場合は、全額返済できなくても構いませんが、財産の範囲内で誠実に処理しなければなりません。

限定承認後の管理義務と換価処分

限定承認後、相続人は財産の管理義務を負います。特に不動産や動産などの処分を行うには、家庭裁判所の許可が必要です(民法第928条など)。これは、勝手な処分によって債権者の利益が損なわれるのを防ぐためです。

ただし、債務返済や財産の維持管理のためにやむを得ず処分する場合、許可を得れば可能です。処分した財産の代金は、債権者への弁済に充てることになります。

また、債権者との間でトラブルが起きた場合には、裁判所による調整や裁定を受けることができます。相続人が誠実に義務を果たしていれば、たとえすべての債務を返済できなくても、責任を問われることはありません。

民法928条
限定承認者は、前条第1項の期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。

限定承認と遺産分割の関係

限定承認を行った場合でも、相続人同士での遺産分割協議は可能です。ただし、債務の清算が優先されるため、遺産を自由に分けるには制限があります。
たとえば、借金の返済がすべて終わったあとで、残った財産を分け合うことは可能です。しかし、返済前に財産を先に分けてしまうと、債権者に対して不誠実な扱いとなり、法的責任を問われる可能性があります。

したがって、限定承認のもとで遺産分割を行う場合は、弁護士など専門家の指導を受けながら進めることが重要です。

単純承認との混在リスク

もし共同相続人の一部が限定承認を希望していても、他の相続人が先に単純承認をしてしまうと、全体の限定承認が不可能になります。これは民法上の非常に厳格な原則です。
たとえば、不動産の名義変更や預貯金の払い戻しなどを相続人が勝手に行った場合、それが「単純承認」とみなされることがあります。これは、財産を処分するという行為が、債務も含めてすべてを承継する意思表示と解釈されるためです。

限定承認を選ぶ可能性がある場合は、慎重に行動し、専門家のアドバイスを受けてから対応する必要があります。

07限定承認者に課される公告義務と弁済の優先順位

限定承認者の公告・催告義務と弁済手続きの全体像

限定承認とは、相続人が相続によって得た財産の範囲内で被相続人の債務や遺贈を弁済する制度です。相続人が限定承認を選択した場合、債務の全額を無制限に引き継ぐわけではないものの、その代わりに民法上定められた厳格な手続が求められます。民法第927条〜935条等にもとづき、限定承認者に課される公告・催告の義務と、債権者・受遺者への弁済手続きについて解説します。

限定承認者による公告・催告

限定承認者は、限定承認をした日から5日以内に、すべての相続債権者および受遺者に対して、一定の期間内にその請求を申し出るよう公告しなければなりません。この公告は、官報による方法で行われ、請求申出期間は2か月です。

加えて、限定承認者は、その存在を知っている債権者や受遺者については、個別に請求の申出を催告する義務があります。

民法927条
1. 限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、2箇月を下ることができない。
2. 前項の規定による公告には、相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし、限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができない。
3. 限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者には、各別にその申出の催告をしなければならない。
4. 第1項の規定による公告は、官報に掲載してする。

公告および催告を怠った場合、限定承認者はそのことにより債務の弁済義務を超えて責任を問われる可能性があります。

弁済拒絶権と優先弁済

民法928条は、公告期間中である限り、限定承認者が弁済を拒むことができると定めています。これは債権者の全体像が判明していない段階で一部の債権者に弁済してしまうと、他の債権者に対する不公平が生じることを防ぐためです。

民法928条
限定承認者は、前条第1項の期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。

一方で、公告期間が満了した後は、限定承認者は相続財産をもって申出をした債権者や受遺者に対し、相続財産の範囲内でその権利に応じて弁済しなければなりません。ただし、担保権などの優先弁済権を持つ債権者は、一般債権者よりも優先して弁済を受けることができます。

民法929条
第927条第1項の期間が満了した後は、限定承認者は、相続財産をもって、その期間内に同項の申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に、それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。

換価処分と競売の必要性

相続財産の中には現物では弁済に適さないものもあるため、限定承認者は相続財産を換価する必要がある場合には、家庭裁判所が選任する鑑定人による評価を経て、競売等によって売却します。この手続は職権により行われることが多く、職権による管理人が関与します。

さらに、相続債権者および受遺者は、自己の費用でこの換価手続に参加することが可能であり、競売や評価の適正性を確保する権利があります。

民法932条
前三条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付さなければならない。ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。

民法933条
相続債権者及び受遺者は、自己の費用で、相続財産の競売又は鑑定に参加することができる。この場合においては、第260条第2項の規定を準用する。

不当な弁済に対する責任

限定承認者が、公告や催告を怠ったり、弁済順位に反したり、未公表の債権者に対して弁済を行った場合、これは「不当な弁済」とされ、損害賠償責任を負うことになります。これは、債権者間の公平性を害する重大な違反行為であり、限定承認制度の信頼性を損なうため、法は強い責任を課しています。

民法934条
1. 限定承認者は、第927条の公告若しくは催告をすることを怠り、又は同条第1項の期間内に相続債権者若しくは受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。第929条から第931条までの規定に違反して弁済をしたときも、同様とする。
2. 前項の規定は、情を知って不当に弁済を受けた相続債権者又は受遺者に対する他の相続債権者又は受遺者の求償を妨げない。
3.第724条の規定は、前二項の場合について準用する。

申出のなかった債権者の取扱い

公告期間内に申出をしなかった債権者・受遺者については、相続財産についての配当を受けることができなくなります。ただし、特別な担保権(例:抵当権や先取特権)を持つ者については、公告期間経過後であってもその権利行使は妨げられません。

このように、限定承認後の手続きは、相続債務の処理を厳格に公平に行うために設けられており、限定承認者には多くの法的義務と責任が課せられています。公告・催告から始まる一連の手続は、法的知識がないと混乱しやすいため、専門家の助言のもとに進めることが望ましいでしょう。

民法935条
第927条第1項の期間内に同項の申出をしなかった相続債権者及び受遺者で限定承認者に知れなかったものは、残余財産についてのみその権利を行使することができる。ただし、相続財産について特別担保を有する者は、この限りでない。

08限定承認で守る相続人の権利と義務

財産管理と処分に関するルール

限定承認が受理された後、相続人には重要な責任が生じます。その第一が、相続財産の管理と処分に関する義務です。

まず、相続人は故人の遺産(不動産、預貯金、動産、株式など)を、自分自身の財産とは明確に分けて扱う必要があります。限定承認では、相続財産を「債務弁済のための原資」として確保する義務があるからです。
原則として、これらの財産を勝手に処分することは禁止されています。遺産分割のように相続人間で分け合ったり、売却して利益を得たりすることはできません。

ただし、家庭裁判所の許可を得た場合に限り、相続財産の処分が可能です。これは民法の規定でも認められています。たとえば、以下のようなケースが処分許可の対象になります。

  • 債務返済のために不動産を売却する
  • 老朽化した建物の管理費が重く、維持困難な場合に処分する
  • 財産の価値が急落するおそれがあり、速やかに換金する必要がある

このように、家庭裁判所の監督下で財産処分を行うことで、相続人の法的責任と債権者への公平性が保たれます。

債権者への弁済と優先順位

限定承認の核心は、「相続財産の範囲内でのみ債務を支払うこと」にあります。つまり、相続人が自分の財産を使って借金を肩代わりする必要はありません。このため、債権者に対する支払いも、一定の手続きに従って行われます。まず相続人は、相続財産と債務の内容をまとめた財産目録を作成し、家庭裁判所に提出します。

そのうえで、すべての債権者に対して、公告と個別通知を行い、請求申出の機会を与えます。このとき、以下のような優先順位に沿って支払われます。

  1. 葬儀費用や相続に要した経費
  2. 税金などの公租公課
  3. 債権者への債務弁済(抵当権などがある場合は別途優先される)
  4. 受遺者(遺言によって財産をもらうはずだった人)

もし債権者が多数いて、財産が足りない場合は、法的な優先順位に従って配当され、それでも不足する分は免除されます。

弁済後に残った財産の処理

すべての債務が弁済され、かつ相続財産が余った場合、その残余分は相続人に帰属します。このとき初めて、財産を自由に使ったり分割したりすることができます。

一方で、相続財産がすべて債務に充てられた場合、相続人には何も残りませんが、それ以上の債務を背負うこともありません。これが限定承認の最大のメリットです。

相続人の義務違反とペナルティ

限定承認者が法的義務に違反した場合、たとえば以下のような行為をすれば、単純承認したものとみなされるおそれがあります。

  • 財産目録を提出せず、放置した
  • 財産を勝手に処分した
  • 債権者に対して公告・通知を怠った

このような義務違反があると、限定承認の効力が認められず、相続人が借金もすべて引き継ぐ「単純承認」と見なされてしまうことがあります。特に注意が必要です。

限定承認後の実務ポイント

  • 慎重な財産調査が必要
  • 債権者との対応は期限内に確実に行う
  • 家庭裁判所への相談や許可申請は丁寧に
  • 相続人同士の調整・同意も不可欠

限定承認は、選択した時点では安心できる制度ですが、その後の対応を誤ると、逆にリスクを抱える可能性もあります。手続きの各ステップで、専門家の支援を受けることが現実的な対応策といえます。

09限定承認における相続財産管理人と相続債権者の役割

相続財産管理人が選任される場面

限定承認を選択した相続人が複数いる場合や、相続財産に関して利害関係が複雑なときには、「相続財産管理人」という第三者が必要になることがあります。これは、相続人が共同して限定承認を行った場合において、財産の管理や清算を中立的に、かつ確実に進める必要があるためです。

民法936条は、このような場合に家庭裁判所が相続人の中から「職権をもって」相続財産管理人を選任できることを定めています。つまり、家庭裁判所が必要と判断した場合には、たとえ相続人が反対しても、手続きの公正性と円滑性を確保するために管理人の選任が行われるのです。

民法936条
1.相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の清算人を選任しなければならない。
2. 前項の相続財産の清算人は、相続人のために、これに代わって、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。
3. 第926条から前条までの規定は、第1項の相続財産の清算人について準用する。この場合において、第927条第1項中「限定承認をした後5日以内」とあるのは、「その相続財産の清算人の選任があった後10日以内」と読み替えるものとする。

管理人の選任方法とその法的地位

家庭裁判所は、限定承認の申述を受理したときに、原則として相続人の中から管理人を選任します。この管理人を「職権による管理人」と呼びます(家事事件手続法94条)。この人物には強い法的地位が付与され、被相続人の財産を自己の名義で管理・清算することが認められています。つまり、他の相続人と異なり、管理行為の全責任を負い、権限も集中しているのです。

このような制度を設けているのは、相続人が複数いて対立する可能性がある場合、誰かが中立的にかつ迅速に対応しなければ、財産の毀損や債権者の損失リスクが高まるからです。

管理人の注意義務と責任

管理人には、被相続人の財産に対して「自己の財産におけるのと同一の注意義務」が課されます。つまり、自分の財産を管理するのと同じレベルの注意を払って管理しなければなりません。

さらに、債務の弁済や財産処分などの行為についても、管理人は自己の裁量で行うことが可能です。とはいえ、限定承認という制度の趣旨から、管理人がすべてを自由に処分できるわけではなく、あくまで債権者に対する公平な配当を前提に行動する必要があります。

民法918条
相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。

一方で、公告期間が満了した後は、限定承認者は相続財産をもって申出をした債権者や受遺者に対し、相続財産の範囲内でその権利に応じて弁済しなければなりません。ただし、担保権などの優先弁済権を持つ債権者は、一般債権者よりも優先して弁済を受けることができます。

訴訟上の地位と法的効果

管理人は、相続財産に関して訴訟を起こしたり、被告となることが可能です。たとえば、被相続人の財産を返還しない者に対して訴えを起こす場合や、逆に相続人が不当に請求されている場合に防御することもできます。

裁判上の立場としては、相続人全員の法定代理人ではなく、あくまで管理目的に限った代理権を有する者として位置づけられています。このように、管理人は非常に重要な責任を持つ存在であり、法律上の効果も相当に大きいのです。

相続債権者とは

次に登場するのが「相続債権者」という立場の人です。民法937条によれば、限定承認を行った相続人の中に、法定単純承認に該当する行為をした者がいた場合、その者については限定承認の効力を失い、単純承認したものとみなされます。

このとき、他の相続人は依然として限定承認者であるため、相続債権者は「法定単純承認をした相続人の持分に応じて」請求を行うことができます。言い換えると、限定承認をした相続人全員に対して等しく請求することはできず、あくまで「単純承認した者」に対してのみ、全責任を問うことができるのです。

民法937条
限定承認をした共同相続人の一人又は数人について第921条第1号又は第3号に掲げる事由があるときは、相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について、当該共同相続人に対し、その相続分に応じて権利を行使することができる

単純承認とみなされるケース

ここで注意が必要なのは、相続人の一人が、相続財産を処分したり、債務の一部を勝手に弁済したような場合、それが「法定単純承認」とみなされることです。このような行為があった場合、他の相続人が限定承認をしていたとしても、その者個人については単純承認が成立したとみなされ、全責任を負うことになります。

よって、限定承認を行った相続人の間では、相互に慎重な行動が求められます。誰か一人でも誤った行動をとれば、債務を背負うリスクがその者に集中するのです。

管理人と債権者の関係整理

限定承認制度においては、相続財産管理人が債権者に対して債務の弁済を行いますが、その際の順位や配当方法は、破産手続と類似のルールが適用されます。債権者は家庭裁判所の定める期間内に債権届出を行い、その内容に基づいて管理人が財産を換価・清算し、配当を行います。

この過程において、法定単純承認をした者に対しては、相続債権者が直接請求できるため、管理人はその部分については関与せず、別個に処理されるという構造になります。

10相続放棄の効果と注意点

相続放棄の効力が及ぶ範囲

相続放棄とは、亡くなった人(被相続人)の財産や借金を一切相続しないとする法的な意思表示です。放棄が認められると、その人は「初めから相続人ではなかった」ものとみなされます。

民法939条
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

これによって、相続財産の中に借金や保証債務があっても、放棄をすればそれらを引き継ぐ義務は完全になくなります。ですが、放棄をすればすべてが終わり、無関係になるというわけではありません。一定のケースでは、放棄した人にも「相続人と同様の地位」が生じることがあります。

相続人としての二重の地位

相続放棄によって、第一順位の相続人が全員いなくなった場合、次に相続する順位の人(第二順位:親や祖父母など)が新たに相続人となります。さらに、その人たちも放棄した場合、次に第三順位(兄弟姉妹など)へと移行します。

ここで注意すべきなのが、「放棄をした人が、次順位の相続人として、別の立場で再び登場する可能性」があるという点です。これがいわゆる「二重の地位」です。

たとえば、兄が亡くなり、弟が相続放棄をしました。その後、親もすでに死亡していたため、法的には放棄した弟が「兄弟としての地位」で第三順位の相続人になる可能性があります。こうなると、弟は放棄したにもかかわらず、また相続人になってしまうのです。

このような状況を避けるためには、最初の放棄時点で全体の家族構成をしっかりと把握し、必要であれば再度放棄の手続きを行う必要があります。

熟慮期間の再スタートと起算点

相続放棄には、民法915条により「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」という熟慮期間(しっかり考えて決める猶予期間)が定められています。

一度放棄しても、順位が変わって別の相続権が回ってくると、再び熟慮期間が生じることがあります。このように、新たな立場で相続人となったことを知ったときから、再び3か月のカウントがはじまるのです。

この点は、最高裁判所の判例でも認められています。つまり、一度放棄したからといって安心はできず、「再度、相続人となったことを知った時点」でまた放棄するかどうかを判断し、3か月以内に手続きをする必要があります。

相続財産の管理義務に注意

相続放棄をした人でも、放棄が家庭裁判所に受理されるまでは、相続財産を「管理する義務」を負っています。これは、相続財産が無秩序に散逸しないよう保護するための制度です。

たとえば、被相続人の自宅に貴重品が残っている場合、鍵をかけて管理したり、必要に応じて保全措置を講じる義務があるとされています。これは、放棄の申述が受理されるまでの一時的な責任ですが、うっかり何もしないと、損害賠償の対象になることもあり得ます。

管理義務を放棄していいというわけではない

たとえば、相続放棄をした人が被相続人のアパートを放置した結果、他人に占拠された、火災が起きたなどという場合、放棄者であっても一定の責任を問われる可能性があります。

このようなトラブルを避けるため、放棄したとしても「放棄前後の財産管理」は司法書士などの専門家の助言のもと、適切に対応しておくことが重要です。

相続放棄は不利益から守る手段

相続放棄は、相続による不利益から身を守るための有効な手段です。しかし、そこには手続き上の厳格なルールが存在し、放棄後の対応や再度の相続の可能性にも注意が必要です。

特に、二重の相続人となる可能性や、管理義務の存在は見落とされがちなポイントです。相続が発生した場合には、早期に全体像を把握し、専門家と相談しながら手続きを進めることが重要です。

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