相続が発生すると、相続人のあいだで遺産分割をすることになります。その際にとても重要なのが相続人の調査です。相続の手続きをするには、どのような相続人がいるかを調査して相続人を確定しなければなりません。相続人調査をしないと、遺産分割の際にトラブルが発生するおそれがあり、家族の不仲やさらには訴訟問題など、大きな紛争へとつながってしまうかもしれません。そのようなトラブルの原因を最大限に回避できるよう、相続人の調査は必ずしなければならないステップのひとつです。
誰が相続人であるかは戸籍によって決まっていますので、戸籍を調べれば把握できます。しかし、必ずしも明らかでない場合もあります。胎児の存在や、相続人の行方がわからない場合、婚姻外に子がいる場合など、さまざまなケースがあります。
相続人調査とは
相続人の調査は、被相続人の財産を相続するのは誰なのか、を戸籍謄本などで特定することです。相続人は被相続人の配偶者と子、子がいなければ親や孫、どちらもいなければ兄弟姉妹、という順位のもと法定相続人がいます。
しかし、不仲で疎遠になっている、しばらく連絡をとっていない、という状態で相続人のすべてを把握していないことも少なくありません。
さらには、実際に調査をしてみると、実は被相続人に認知した婚外子がいた、という知らない事実が発覚することもあります。現代においてはそんなことないだろう、と思われる方も多いかもしれませんが、あとになって発覚したのではトラブルになりかねませんので、必ずきちんと把握しておかなければなりません。
相続が発生すると、相続人のあいだで遺産分割をすることになります。遺産分割協議は相続人全員が参加しなければならず、協議した内容が決定したら遺産分割協議書には相続人全員が同意したうえで署名・押印が必要になります。もし、あとから新たな相続人が発覚した場合、全員が同意した遺産分割協議は無効になります。当然、再度遺産分割協議をして、全員の同意と署名・押印が必要になります。協議に時間がかかるだけでなく、相続人であるはずの人が除かれて協議が進んでいたことへの不信、協議がうまくまとまらないことで対立が起きたり、法的な紛争が起きたり、というトラブルの原因にもなります。
戸籍謄本を集め、相続人を確定する
相続人の調査は、被相続人の婚姻関係や親子、兄弟姉妹の関係にあたる人を調べることです。
この調査は、主に被相続人の戸籍謄本を集めることで確定します。被相続人が出生してから亡くなるまでの戸籍をすべて集め、徹底して被相続人の関係を調査して相続人を確定します。
相続人調査のさまざまなケース
相続人が相続承認後に行方不明の場合
遺産分割協議は相続人全員でしなければなりませんが、相続人が相続を承認後に行方不明となった場合、遺産分割協議ができなくなります。相続人が行方不明となった場合は、民法第907条2項の適用となります。
第907条2項
遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
相続人が相続開始当時から行方不明の場合
存在している相続人が相続開始当時から行方不明の場合は、不在者財産管理人を選任し遺産分割協議ができます。
相続開始後で遺産分割協議前の死亡
行方不明の相続人が相続開始後で遺産分割協議前に死亡していたことが判明した場合は、相続人は存在した相続人の確定に重大な過誤はありません。行方不明で死亡した相続人の相続人となる者が、遺産分割協議に参加します。
同時死亡の推定がある場合
同時死亡の推定とは、たとえば父と子が同じ事故で死亡したような場合です。この場合、死亡者相互間には相続はおこりません。被相続人の先死が確認できる場合以外は、遺産分割協議を控えるべきです。
相続人身分の消滅が争われている場合
相続欠格・相続人の廃除・嫡出否認・親子関係不存在・婚姻または縁組の無効などが争われている場合がありますが、これらに該当する場合は、当該事件が解決し明確な判定が出るまで、遺産分割協議をすべきではありません。
被相続人の死後に認知の訴が提起された場合
被相続人が亡くなったあとに認知の訴がなされる場合があります。しかし戸籍上の相続人だけで、すでに遺産分割協議がされていた場合は有効です。民法第910条は有効を前提としています。
民法第910条
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。
遺産分割協議を有効として、後に認知によって相続人に確定した者に、価額支払請求を許せばよいとしたのです。