特別縁故者に対する相続財産の分与
特別縁故者とは、法定相続人がいない場合に、被相続人と特別な関係を持っていた人物が遺産を受け取ることができる制度です。特別縁故者に対する財産分与は、家庭裁判所が「分与が適切である」と判断した場合にのみ行われます。
第958条
1.前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2.前項の請求は、第952条第2項の期間の満了後3箇月以内にしなければならない。
特別縁故者への分与が認められる条件
1. 法定相続人が存在しない場合
特別縁故者制度は、あくまで法定相続人が存在しないケースに限られます。法定相続人が1人でもいる場合、この制度は適用されません。たとえ法定相続人が行方不明や音信不通であっても、存在が確認されれば相続はそちらに優先されます。
2. 特別縁故者の関係性
特別縁故者として認められるのは、次のような者です。
- 被相続人と生計を同じくしていた者
- 被相続人の療養看護に努めた者
- その他、被相続人と特別な縁故を持っていた者
特別縁故者は親族に限られず、内縁の配偶者、友人、従業員、法人や団体なども対象となる場合があります。
分与の相当性
家庭裁判所は、財産を分与するかどうかを慎重に判断します。その際には、次のような要素を総合的に考慮します。
- 被相続人と特別縁故者の関係の深さや内容
- 被相続人と特別縁故者の生活状況(同居や経済的支援の有無)
- 特別縁故者の年齢や職業
- 残存する財産の種類や総額
裁判所の裁量で、財産の全部または一部が分与される場合があります。実際には、財産の全額が分与されるケースもありますが、状況によっては一部の分与にとどまることもあります。
分与の対象財産
分与の対象となるのは、「清算後に残った財産」に限られます。ここでいう清算とは、債務の弁済や遺産管理人による管理費用の支払いを指します。特に問題となるのは「共有持分」の扱いです。
共有持分の扱い
民法第255条では、共有者が相続人なく死亡した場合、その共有持分は他の共有者に帰属すると定めています。しかし、最高裁判所の判例では、特別縁故者への分与が優先されるとされています。つまり、共有持分も分与の対象となり、特別縁故者への分与が行われない場合に限り、他の共有者に帰属するという解釈が示されています。
第255条
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
分与の手続き
特別縁故者が財産分与を受けるためには、家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。以下は手続きの概要です。
1. 申立権者
特別縁故者であると主張する本人が申立権を持ちます。第三者が代わりに申請することや、家庭裁判所が職権で分与を行うことはできません。
2. 申立期間
申立は、相続人不存在の確定後(民法第958条に基づく公告期間終了後)3か月以内に行う必要があります。この期間を過ぎると、財産分与の請求権は消滅します。
3. 必要な証拠
申立には、以下のような証拠を提出する必要があります:
- 被相続人との関係を示す書類(住民票、写真など)
- 同居や療養看護を証明する記録
- 財産分与を求める理由を裏付けるその他の証拠
残余財産の国家帰属
特別縁故者への分与が行われず、あるいは一部の分与にとどまり、残余財産が存在する場合、その財産は最終的に国家に帰属します。この際、相続財産管理人は、速やかに財産の管理計算を行い、国庫に引き継ぐ義務を負います。たとえば、土地や建物などは公共利用のために活用されるケースもあります。
特別縁故者制度の意義
この制度の意義は、法定相続人がいない場合でも、被相続人の財産をより適切な形で分配する点にあります。特別縁故者がいない場合に財産が無条件で国庫に帰属してしまうのではなく、被相続人と深い関係を持った者に配慮することで、社会的な公平性を実現しています。