相続実務の現場では、相続が発生する前の段階で、すでに問題が起きているケースが少なくありません。高齢化が進む現在、判断能力の低下や認知症のリスクを抱えながら生活する高齢者は増えています。こうした状況の中で、財産をどう管理するかは、将来の相続の行方を大きく左右する重要な問題です。今回は、高齢者の財産の管理についてを解説します。
高齢化社会と財産管理の問題
日本では、高齢単身世帯や高齢夫婦のみの世帯が増加しています。子どもがいない、あるいは子どもが遠方に住んでいる、疎遠になっているという家庭もめずらしくありません。
このような状況では、日常生活の問題だけでなく、預貯金の管理、不動産の管理、契約行為の判断などの財産の管理問題が発生します。本人だけでは対応できなくなる場面が出てくるのです。
この段階では相続の問題とは異なるかもしれませんが、相続の土台となる財産の管理が不安定になっているということは、相続の問題はすでにはじまっているといえます。
高齢者の財産管理とは
高齢者の財産管理とは、単にお金を預かることではありません。具体的には、次のような行為を含みます。
- 預貯金口座の管理・解約・移動
- 不動産の維持・修繕・売却
- 有価証券や保険の管理
- 各種契約の締結・変更・解約
これらはいずれも、本人の意思に基づく判断能力が前提となる行為です。つまり、財産管理とはお金の問題であると同時に、判断能力の問題でもあります。
相続と財産管理の深い関係
相続は、財産を次の世代へ引き継ぐ制度です。しかしその前提として、財産が適切に管理され、動かせる状態にあることが必要です。
相続の場面では、不動産の名義を変更する、財産を分ける、売却して換価する、といった財産を動かす行為が必ず発生します。ところが、生前の財産管理が十分ではない場面、これらの行為ができなくなることがあります。ここに、財産管理と相続が切り離せない理由があります。
判断能力低下・認知症のリスクが与える影響
高齢になるにつれ、判断能力が低下するリスクは誰にでもあります。認知症と診断されていなくても、金融機関や不動産業者から「本人の判断能力に不安がある」と判断されれば、取引が進まないこともあります。
判断能力に問題が生じると、預貯金の解約や大きな出金ができない、不動産を売却できない、相続対策や遺言の作成ができない、といった法律上の制度以前に実務上の壁として立ちはだかります。
事実上の財産凍結
判断能力が低下した高齢者の財産は、事実上「凍結」された状態になります。これは、金融機関が勝手に財産を止めているわけではありません。本人の意思確認ができない以上、取引ができないのは当然の対応です。
この状態になると、家族であっても勝手に引き出すことはできない、不動産の売却や担保設定もできない、相続税対策や生前贈与が不可能、という状況に陥ります。
財産は存在しているのに誰も動かせない、つまり実務でいう財産凍結の状態です。
家族でも代わりに管理できない理由
家族なのだから、代わりに管理できるのでは?、と思われる方も多いと思いますが、法律上、本人以外が当然に財産管理をできるわけではありません。
たとえ配偶者や子どもであっても、本人名義の預金を自由に動かすこと、本人名義の不動産を売却することはできません。これを可能にするには、法律に基づいた制度や契約が必要になります。
高齢者の財産管理は相続の入口
以上のように、高齢者の財産管理は、生前の問題でありながら将来の相続に直結しています。判断能力が低下したまま相続を迎えると、相続手続きが進まない、次の相続(老老相続)で問題が拡大する、家族が大きな負担を背負う、といった結果につながります。
高齢者の財産管理は、相続とは別の話ではなく、相続の入口として最初に考えるべき問題なのです。
