相続分とは
相続が発生した際に相続人が受け取る財産の割合を相続分といいます。相続分は法律で定められている「法定相続分」と、被相続人の意思による「指定相続分」の2種類があります。相続分の割合は相続人の関係性や人数によって異なり、遺産分割の際に基準として用いられます。
法定相続分
第900条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めることによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は4分の1とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
本条は相続財産の取り分の目安となる法定相続分についてを規定しています。平成25年の改正前までは、「嫡出でない子」の相続分が「嫡出の子」の相続分の半分であると規定していましたが、憲法14条(いわゆる法の下の平等についての規定)との関係から争われており、最高裁はそのような相続分に関する規定は違憲だと判断し改正されました。
法定相続分は、法定相続人の組み合わせによって変わります。次の表がわかりやすいのでご覧ください。
法定相続人 | 法定相続分 | |
---|---|---|
配偶者と子 | 配偶者は2分の1 | 子は2分の1 |
配偶者と親 | 配偶者は3分の2 | 親は3分の1 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者は4分の3 | 兄弟姉妹は4分の1 |
配偶者のみ | すべて | |
子のみ | すべて | |
親のみ | すべて | |
兄弟姉妹のみ | すべて |
子や親、兄弟姉妹が複数人いる場合には、その人数で割って均等にします。
相続人:配偶者と子
配偶者の相続分は2分の1、子の相続分は2分の1です。子が複数人いる場合は、子全員で2分の1を取得し、各人で均等に分けます。子の男女の別や実子と養子の別、国籍の有無を問うことなく均分されます。
相続人:配偶者と子の例1
相続人:妻Aと子B・C 相続財産3,000万
妻A | 3,000万 × 2分の1 = 1,500万 |
子B | 3,000万 × 4分の1 = 750万 |
子C | 3,000万 × 4分の1 = 750万 |
相続人:配偶者と子の例2
相続人:妻Aと子B・C、不倫相手との子D 相続財産3,000万
妻A | 3,000万 × 2分の1 = 1,500万 |
子B | 3,000万 × 6分の1 = 500万 |
子C | 3,000万 × 6分の1 = 500万 |
子D | 3,000万 × 6分の1 = 500万 |
相続人:配偶者と直系尊属
直系尊属の相続分は3分の1、配偶者の相続分は3分の2です。直系尊属が複数人いる場合は、3分の1を取得し、各人で均等に分けます。父母が相続人になる場合、実父母や養父母は関係ありません。父母がいない場合に祖父母が相続人になります。
相続人:配偶者と直系尊属の例1
相続人:妻Aと被相続人の父母B・C 相続財産3,000万
妻A | 3,000万 × 3分の2 = 2,000万 |
被相続人の父B | 3,000万 × 6分の1 = 500万 |
被相続人の父C | 3,000万 × 6分の1 = 500万 |
相続人:配偶者と直系尊属の例2
相続人:妻Aと被相続人の父母B・C 相続財産3,000万
妻A | 3,000万 × 3分の2 = 2,000万 |
被相続人の父B | 3,000万 × 6分の1 = 500万 |
被相続人の母C | 3,000万 × 6分の1 = 500万 |
相続人:配偶者と兄弟姉妹
兄弟姉妹の相続分は4分の1、配偶者の相続分は4分の3です。兄弟姉妹が複数人いる場合は、全員で4分の1を取得し、各人で均等に分けます。父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1です。ここでいう父母には、養父母も含みます。実父母あるいは養父母のどちらかを同じくすれば、全血の兄弟姉妹となります。一方の実父母が他方の養父母である場合も同じです。
相続人:配偶者と兄弟姉妹の例1
相続人:妻Aと被相続人の兄B・妹C 相続財産3,000万
妻A | 3,000万 × 4分の3 = 2,250万 |
被相続人の兄B | 3,000万 × 8分の1 = 375万 |
被相続人の妹C | 3,000万 × 8分の1 = 375万 |
相続人:配偶者と兄弟姉妹の例2
相続人:妻Aと被相続人の兄B・被相続人とは異母の妹C 相続財産3,000万
妻A | 3,000万 × 4分の3 = 2,250万 |
被相続人の兄B | 3,000万 × 6分の1 = 500万 |
被相続人とは異母の妹C | 3,000万 × 12分の1 = 250万 |
法定相続分の問題
さまざまなパターンの法定相続分です。
被相続人に配偶者がなく、子、親、兄弟姉妹が相続人である場合、子、親、兄弟姉妹のそれぞれが相等しく均分した相続分になります。ただし、父母の一方のみが同じである兄弟姉妹の相続分は、父母どちらも同じである兄弟姉妹の相続分の2分の1です。
配偶者だけが相続人である場合、配偶者が相続財産のすべてを相続します。被相続人に、伯叔父母や従兄弟姉妹がいても配偶者だけが相続人になります。
身分関係が重複する場合の相続分
実親が嫡出でない子を養子としたり、あるいは祖父が孫を養子にする場合には、親子間または祖父と孫間という血縁関係があるうえに、養親子という法定血族関係が重複しています。また、配偶者の一方が、他方の父母の養子となった場合には、兄弟姉妹という血縁関係のほかに、配偶者という身分関係が重なっています。
このような場合に、相続が開始すると2つの身分を持つ相続人は、2つの地位に基づく相続が発生し、つまり二重相続になります。二重相続はケースによって問題が異なります。二重に相続したり、一方を相続したりと異なるということです。
重複する相続の例1
被相続人の長女の子(被相続人の孫)が、被相続人の養子である場合
長女が被相続人の死亡前に亡くなったとき、その子は養子としての相続分を当然に取得します。また、亡くなった母親の代襲相続人としての相続分も取得します。
重複する相続の例2
実親が非嫡出子を養子とした場合
親が死亡した場合、養子は非嫡出子の身分が消滅します。養子としての相続分のみを取得します。
重複する相続の例3
婿養子である夫が他方の父母の養子となった場合
養父母が亡くなった後、婿養子が亡くなり、実父母もすでに亡くなっていて、子どもがいない場合、妻は妻としての相続分のみを取得し、兄弟姉妹としての相続分は取得しないというのが実務の扱いです。つまり、妻の相続分と兄弟姉妹の相続分を重複しないという理解です。
法定相続分と登記
被相続人Aの共同相続人B・C
被相続人Aの相続財産である不動産を、Bが勝手にBの単独所有名義の登記をしたうえに、その不動産を第三者へ売却し、第三者の所有権移転登記をしました。この場合、共同相続人Cは、登記がなくても自己の相続した持分2分の1を第三者に主張することができます。これは、共同相続人Cの持分に関する限り、無権利の登記で、登記の公信力がないため、第三者も共同相続人Cの持ち分の権利を取得することができないと判例があります。
代襲相続人の相続分
相続人たるべき子または兄弟姉妹が、相続開始前に死亡したり、相続権を失ったりした場合に、その者の子または直系卑属(子・孫など)によって代襲されます。兄弟姉妹の代襲相続人は、直系卑属ではありません。兄弟姉妹の子すなわち、被相続人の甥姪です。
子の代襲相続人の相続分
子の代襲相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属に当たる被代襲者が承継する相続分と同様です。代襲相続は、被代襲者の死亡または相続欠格・廃除の相続権喪失によって、その直系卑属が不利益を受けないようにする規定です。したがって、代襲相続人の相続分は被代襲者が承継するべき相続分と同様であるべきとされました。
代襲相続人が一人の場合、その者は被代襲者の相続分をそのまま承継します。代襲相続人が複数人いる場合は、各自の相続分は被代襲者が承継するはずだった部分についての法定相続分を相続することになります。