被相続人が亡くなったときに、誰も相続人がいない、または相続人の存在が明らかでない場合、民法上はその財産をそのまま放置するのではなく、一定の手続きを通じて、法的に処理していくことが定められています。
相続人探索の公告
相続財産管理人が選任された後、最初に実施される重要な手続が、「相続人がいるかどうかを確認するための公告」です。これは、相続人に名乗り出る機会を与えるための措置であり、民法952条2項にもとづいて家庭裁判所が行います。
民法952条2項
前項の規定により相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、6箇月を下ることができない。
この公告は、原則として官報に掲載され、全国に向けて周知されます。家庭裁判所が指定する「一定の期間」は最低6か月以上とされており、その間に相続人が名乗り出れば、通常の相続手続へと移行します。
逆に、この期間内に名乗り出る者がいなければ、相続人不在が法的に確定的になり、次の手続きへと進みます。
債権者および受遺者への公告
相続人探索の公告期間中に相続人が現れなかった場合、管理人は債権者および受遺者に対する公告を行います。
民法957条1項
第952条第2項の公告があったときは、相続財産の清算人は、全ての相続債権者及び受遺者に対し、2箇月以上の期間を定めて、その期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、同項の規定により相続人が権利を主張すべき期間として家庭裁判所が公告した期間内に満了するものでなければならない 。
つまり、6か月の相続人公告期間のうちに、少なくとも2か月の期間を設けて、債権者や受遺者が申し出をできるようにしなければならない、ということです。
公告の対象者としては、たとえば次のような人々が想定されます。
- 被相続人から金銭を借りていた者(銀行や親族など)
- 被相続人が未払いであった診療費、施設利用料などの請求権者
- 遺言によって財産を譲り受けることになっていた受遺者
この公告は官報により実施され、形式的な「呼びかけ」ではなく、これを逃すと権利が消滅するという重大な法的効果をともないます。
期間経過後の権利制限
公告によって債権者・受遺者に呼びかけがなされても、定められた期間内に申し出がなかった場合、彼らの権利は制限されます。
民法958条
前条第2項の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人並びに相続財産の清算人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができない。
つまり、公告期間中に名乗り出なかった者や、清算人がその存在を知らなかった者については、たとえ後から「実は債権があった」と主張しても、法的には無効になります。
これは、相続財産の管理・清算を無限に引き延ばさないための規定であり、公告をもって公平な機会が与えられたという考え方に基づいています。
公示と失権の法的性格
この公告手続は、法的には「形成的効力」を持つと理解されます。すなわち、公告期間を過ぎれば、権利行使が原則として不可能になるという強い法的効果が生じます。
実際には公告期間が終了したあとに、戸籍上の不備が解消されて相続人が特定された場合、錯誤や裁判上の争いによって債権者の存在が明らかになった場合、など例外的な救済が検討されることもありますが、制度設計上は「公告期間内に動かないと原則アウト」という厳格な扱いが基本です。
以上の手続きを経て、相続人が6か月の公告期間内に現れなかった、債権者・受遺者が2か月以上の公告期間内に名乗り出なかった、という2つの事実が成立した時点で、法的には「相続財産の帰属先が存在しない状態」が確定します。
この確定をもって、初めて「特別縁故者に対する分与」または「国庫への帰属」という最終処分の手続へと進むことが可能になります。