近年、遺言書を作成する人が増えていますが、高齢者による遺言はどうでしょうか。高齢者が作成した遺言については、「本当に遺言の内容を理解していたのか」という点が問題になることがあります。
特に認知症などが疑われる場合には、遺言を作成した時点で「遺言能力」があったのかどうかが争われることがあります。
遺言能力とは
遺言能力とは、遺言の内容を理解し、その結果を判断できる能力をいいます。
遺言は、亡くなった後の財産の分け方を決める重要な法律行為です。そのため、遺言を作成した本人が、その内容を理解していたかどうかが重要になります。
民法では、15歳に達した者は遺言をすることができると定められています。
これは、通常の契約などと比べて、遺言をするために必要な能力はそれほど高くないと考えられているためです。
ただし、高齢者の場合には、認知症などによって判断能力が低下していることもあります。そのため、遺言が有効かどうかを判断する際には、遺言を作成した当時の本人の状態が重要になります。
遺言能力の判断と認知機能検査
遺言能力の有無を判断する際には、医学的な資料が参考にされることがあります。
その代表的なものが、認知機能検査です。
認知機能検査とは、記憶力や判断力、理解力などの状態を確認するための検査です。裁判例のなかでも、認知機能検査の結果が参考資料として取り上げられることがあります。
代表的な検査として、次の二つがよく知られています。
HDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)
HDS-Rは、日本で広く用いられている認知機能検査の一つです。いくつかの質問に答えてもらうことで、記憶力や理解力などの状態を確認します。
- 自分の年齢
- 今日の日付
- 今いる場所
- 簡単な計算
- 言葉の記憶
たとえば、以上のような質問がされ、検査は30点満点で評価されます。
裁判例の分析では、遺言作成の時期に近い時点で15点以上の評価がある場合には、その遺言は基本的に有効と判断される傾向があるとされています。
一方で、おおむね11点以下の場合には、遺言が無効と判断される例が多いとされています。
ただし、この点数だけで結論が決まるわけではありません。本人の症状や生活状況なども含めて総合的に判断されます。
MMSE(ミニメンタルステート検査)
もう一つよく用いられる検査が、MMSEです。これは世界的にも広く利用されている認知機能検査です。
MMSEでは、次のような項目が確認されます。
- 年月日や季節などの理解
- 現在いる場所の認識
- 言葉の記憶
- 計算
- 言葉の理解
- 簡単な指示への対応
- 図形の模写
これらを通して、記憶力、注意力、理解力などを確認します。
裁判例では、遺言作成時期に近い時点で20点程度の評価がある場合には、遺言が有効と判断される例が多いとされています。
一方で、おおむね17点以下の場合には、遺言が無効と判断される傾向があるといわれています。
点数だけで遺言能力が決まるわけではない
もっとも、認知機能検査の点数だけで遺言能力の有無が決まるわけではありません。
裁判では、遺言の内容や作成当時の状況なども重要な判断材料になります。
たとえば、以下のような場合には遺言能力が慎重に検討されることがあります。
- 遺言の内容が非常に複雑である場合
- 特定の相続人だけに大きな利益がある場合
- 遺言作成の経緯が不自然な場合
反対に、内容が比較的単純であり、本人の意思が明確である場合には、認知症の診断があっても遺言が有効と判断されることもあります。
遺言能力の判断は総合的に行われる
このように、遺言能力の判断は、医学的な資料だけで決まるものではありません。
認知機能検査の結果、本人の生活状況、遺言作成の経緯、遺言の内容などを踏まえ、総合的に判断されます。
高齢化が進む社会では、遺言能力をめぐる問題は今後ますます重要になります。
遺言書の有効性が争われることを避けるためにも、遺言を作成する時期や方法については、慎重に検討することが大切です。
