高齢者の認知機能の低下が問題ですが、「本人に意思能力があるかどうか」という判断はどのようにされるのでしょうか。意思能力があるかないかで法律行為が有効か無効なのか、大変な差が出てきます。
意思能力とは
意思能力とは、簡単にいえば、自分がしようとしている行為の意味や結果を理解できるだけの精神的な能力のことです。
たとえば、不動産を売る、預金を引き出す、契約を結ぶといった行為が、自分にどのような影響を与えるのかを理解できるかどうかということです。
民法では、意思能力がない状態で行った法律行為は無効になるとされています。
つまり、本人が契約書に署名していたとしても、そのときに意思能力がなかったと判断されれば、その行為は法律上認められない可能性があります。
認知機能と意思能力の関係
高齢者の判断能力を考えるときには、「認知」という言葉もよく使われます。認知とは、理解、判断、記憶、推論などの知的な働きをまとめて表した言葉です。
認知症の場合には、物忘れなどの記憶障害だけでなく、判断力や理解力などにも影響が出ることがあります。
こうした脳の働きの低下をまとめて「認知機能」と呼びます。
ただし、認知機能の低下があるからといって、直ちにすべての法律行為ができなくなるわけではありません。実際には、その人が具体的な行為の意味を理解できていたかどうかによって判断されます。
意思能力の判断と医師の関与
高齢者の意思能力の有無を判断する場面では、医師の意見が重要になることがあります。
たとえば、介護保険制度では、要介護認定の手続きの中で主治医の意見書が作成され、本人の精神状態や認知機能についての記載が行われます。
また、成年後見制度を利用する場合には、家庭裁判所が医師の診断書などを参考にして、本人の判断能力の程度を確認します。
家庭裁判所は、医師の診断書に記載された内容などをもとに、本人に精神上の障害があるか、判断能力がどの程度低下しているのかを判断することになります。
介護保険制度の要介護認定では認定調査や主治医意見書で、認知症高齢者の日常生活自立度という指標が用いられています。
| ランク | 判断基準 | 見られる症状・行動の例 | 判断にあたっての留意事項 |
|---|---|---|---|
| Ⅰ | 何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している。 | 在宅生活が基本であり、一人暮らしも可能である。相談、指導等を実施することにより、症状の改善や進行の阻止を図る。 | |
| Ⅱ | 日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意していれば自立できる。 | 在宅生活が基本であるが、一人暮らしは困難な場合もあるので、日中の在宅サービスを利用することにより、在宅生活の支援と症状の改善及び進行の阻止を図る。 | |
| Ⅱ a | 家庭外で上記Ⅱの状態がみられる。 | たびたび道に迷うとか、買物や事務、金銭管理などそれまでできたことにミスが目立つ等 | 在宅生活が基本であるが、一人暮らしは困難な場合もあるので、日中の在宅サービスを利用することにより、在宅生活の支援と症状の改善及び進行の阻止を図る。 |
| Ⅱ b | 家庭内でも上記Ⅱの状態がみられる。 | 服薬管理ができない、電話の応対や訪問者との対応など一人で留守番ができない等 | 在宅生活が基本であるが、一人暮らしは困難な場合もあるので、日中の在宅サービスを利用することにより、在宅生活の支援と症状の改善及び進行の阻止を図る。 |
| Ⅲ | 日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする。 | 日常生活に支障を来たすような行動や意思疎通の困難さがランクⅡより重度となり、介護が必要となる状態である。「ときどき」とはどのくらいの頻度を指すかについては、症状・行動の種類等により異なるので一概には決められないが、一時も目を離せない状態ではない。在宅生活が基本であるが、一人暮らしは困難であるので、夜間の利用も含めた居宅サービスを利用しこれらのサービスを組み合わせることによる在宅での対応を図る。 | |
| Ⅲ a | 日中を中心として上記の状態が見られる。 | 着替え、食事、排便、排尿が上手にできない、時間がかかる。 やたらに物を口に入れる、物を拾い集める、徘徊、失禁、大声、奇声をあげる、火の不始末、不潔行為、性的異常行為等 | 日常生活に支障を来たすような行動や意思疎通の困難さがランクⅡより重度となり、介護が必要となる状態である。「ときどき」とはどのくらいの頻度を指すかについては、症状・行動の種類等により異なるので一概には決められないが、一時も目を離せない状態ではない。在宅生活が基本であるが、一人暮らしは困難であるので、夜間の利用も含めた居宅サービスを利用しこれらのサービスを組み合わせることによる在宅での対応を図る。 |
| Ⅲ b | 夜間を中心として上記のⅢの状態が見られる。 | ランクⅢ aに同じ | 日常生活に支障を来たすような行動や意思疎通の困難さがランクⅡより重度となり、介護が必要となる状態である。「ときどき」とはどのくらいの頻度を指すかについては、症状・行動の種類等により異なるので一概には決められないが、一時も目を離せない状態ではない。在宅生活が基本であるが、一人暮らしは困難であるので、夜間の利用も含めた居宅サービスを利用しこれらのサービスを組み合わせることによる在宅での対応を図る。 |
| Ⅳ | 日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする。 | ランク3に同じ | 常に目を離すことができない状態である。症状・行動はランクⅢと同じであるが、頻度の違いにより区分される。 家族の介護力等の在宅基盤の強弱により在宅サービスを利用しながら在宅生活を続けるか、又は特別養護老人ホーム・老人保健施設等の施設サービスを利用するかを選択する。施設サービスを選択する場合には、施設の特徴を踏まえた選択を行う。 |
| M | 著しい精神症状や周辺症状あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする。 | せん妄、妄想、興奮、自傷・他害等の精神症状や精神症状に起因する問題行動が継続する状態等 | ランクⅠ~Ⅳと判定されていた高齢者が、精神病院や認知症専門棟を有する老人保健施設等での治療が必要となったり、重篤な身体疾患が見られ老人病院等での治療が必要となった状態である。 専門医療機関を受診するよう勧める必要がある。 |
