相続という言葉を聞くと、多くの人は「財産を受け取る」ことを思い浮かべます。しかし実際の相続は、プラスの財産(資産)とマイナスの財産(負債)をすべて引き継ぐ制度です。そのため、相続が発生したら最初に行うべきは「財産の全体像を把握すること」です。これを誤ると、思わぬ借金を抱えるリスクがあります。
財産調査の目的と重要性
財産調査の目的は、相続放棄や限定承認などの選択を正確に行うための基礎資料を整えることにあります。 被相続人(亡くなった方)の財産を全て確認することで、どれだけの資産と負債があるかを判断し、法的に安全な相続の方向性を決めることができます。これは民法915条に定められる「3か月の熟慮期間」内に行う必要があり、この期間を過ぎると単純承認(すべてを相続する)とみなされてしまいます。そのため、財産調査は早めに着手することが非常に重要です。
プラスの財産(積極財産)の確認方法
プラスの財産には、現金や預貯金、不動産、株式、保険金、貴金属など、形のあるものも形のないものも含まれます。 主な確認方法は次の通りです。
- 預貯金:通帳・キャッシュカード・ネットバンキング履歴・郵便物から金融機関を特定し、死亡届を提出した後に各銀行で残高証明を取得します。
- 不動産:登記簿謄本を法務局で取得し、所有者名義が被相続人であるかを確認します。固定資産税納付書や登記識別情報通知(権利証)も手がかりになります。
- 有価証券・株式:証券会社の口座情報、株主総会案内、配当通知などを確認します。
- 生命保険金:保険証券や加入通知書を確認し、受取人が被相続人本人か相続人かで扱いが異なります。
- 自動車・貴金属・美術品:名義や所有証明書、保険契約書などをもとに評価します。
特に不動産は、名義確認だけでなく、所在地・地目・持分割合なども調査しておくことが重要です。不動産の評価額は固定資産税評価証明書で把握できます。
マイナスの財産(消極財産)の確認も忘れずに
借金・ローン・未払金などのマイナスの財産も、必ず調査対象に含める必要があります。これを怠ると、後から想定外の債務が発覚し、相続放棄の期限を過ぎてしまうことがあります。主な確認方法は、次のとおりです。
- 借入金・ローン:銀行・信用金庫・消費者金融・カード会社からの郵便物、または信用情報機関(CIC・JICC)で照会。
- クレジットカードの残高:利用明細やカード会社のウェブサイトで確認。
- 住宅ローン・車のローン:返済表や抵当権設定登記から確認可能。
- 連帯保証債務:被相続人が他人の借金の保証人になっている場合も、相続の対象になります。
- 税金や公共料金の未払い:市区町村や税務署からの通知書で確認。
また、被相続人が事業を営んでいた場合は、取引先との未収金・未払金・契約保証なども含め、より慎重な調査が必要です。
財産目録の作成
財産の内容を整理したら、「財産目録」を作成します。財産目録は、相続財産を一覧化したもので、後の遺産分割協議や限定承認申立てに必須の資料です。
以下のような形式でまとめるとわかりやすいです。
財産目録の例
- 預貯金:○○銀行○○支店 普通預金 300万円
- 不動産:○○市○丁目○番地 土地・建物 評価額 1,200万円
- 有価証券:株式会社○○ 株式 200株(時価200万円)
- 借入金:〇〇銀行 ローン残高 400万円
- クレジット債務:○○カード 20万円
記載にあたっては、相続人間の誤解を防ぐため、客観的な資料(通帳コピー、登記簿、明細書など)を添付するのが望ましいです。司法書士に依頼すれば、形式に沿った正確な財産目録を作成してもらえます。
限定承認や相続放棄を判断する材料に
財産調査でマイナスが多い場合、相続放棄や限定承認を選ぶかどうかの判断が必要になります。
- 限定承認:プラスの財産の範囲でのみ借金を返済し、残りがあればそれを相続できる制度。
- 相続放棄:すべての財産と債務を受け継がない。
どちらを選ぶにしても、財産の全体像を把握していなければ適切な判断はできません。「なんとなく負債が多そうだから放棄」と決めてしまうのは危険で、のちに遺産が見つかった場合の権利を失うこともあります。
財産調査は司法書士に依頼を
司法書士に依頼すれば、登記簿・固定資産評価証明書の取得、財産目録の作成、相続関係説明図との整合性確認などを一括で任せられます。また、家庭裁判所での限定承認や相続放棄の申述にもスムーズに移行でき、期限内での管理も行えるため安心です。
相続財産をきちんと調べることは、将来のトラブルを防ぐ最大のポイントです。財産調査は相続のすべての判断の基礎であり、正確に行うほど安全な相続が実現します。「何を」「どこまで」調べればよいのかわからない場合は、司法書士が中立の立場で客観的に整理してくれます。
