相続分とは
相続が発生した際に相続人が受け取る財産の割合を相続分といいます。相続分は法律で定められている「法定相続分」と、被相続人の意思による「指定相続分」の2種類があります。相続分の割合は相続人の関係性や人数によって異なり、遺産分割の際に基準として用いられます。
法定相続分
第900条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めることによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は4分の1とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
本条は相続財産の取り分の目安となる法定相続分についてを規定しています。平成25年の改正前までは、「嫡出でない子」の相続分が「嫡出の子」の相続分の半分であると規定していましたが、憲法14条(いわゆる法の下の平等についての規定)との関係から争われており、最高裁はそのような相続分に関する規定は違憲だと判断し改正されました。
法定相続分は、法定相続人の組み合わせによって変わります。次の表がわかりやすいのでご覧ください。
| 法定相続人 | 法定相続分 |
|---|
| 配偶者と子 | 配偶者は2分の1 | 子は2分の1 |
| 配偶者と親 | 配偶者は3分の2 | 親は3分の1 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者は4分の3 | 兄弟姉妹は4分の1 |
| 配偶者のみ | すべて |
| 子のみ | すべて |
| 親のみ | すべて |
| 兄弟姉妹のみ | すべて |
法廷相続分
子や親、兄弟姉妹が複数人いる場合には、その人数で割って均等にします。
相続人:配偶者と子
配偶者の相続分は2分の1、子の相続分は2分の1です。子が複数人いる場合は、子全員で2分の1を取得し、各人で均等に分けます。子の男女の別や実子と養子の別、国籍の有無を問うことなく均分されます。
相続人:配偶者と子の例1
相続人:妻Aと子B・C 相続財産3,000万
| 妻A | 3,000万 × 2分の1 = 1,500万 |
| 子B | 3,000万 × 4分の1 = 750万 |
| 子C | 3,000万 × 4分の1 = 750万 |
相続人:配偶者と子の例2
相続人:妻Aと子B・C、不倫相手との子D 相続財産3,000万
| 妻A | 3,000万 × 2分の1 = 1,500万 |
| 子B | 3,000万 × 6分の1 = 500万 |
| 子C | 3,000万 × 6分の1 = 500万 |
| 子D | 3,000万 × 6分の1 = 500万 |
相続人:配偶者と直系尊属
直系尊属の相続分は3分の1、配偶者の相続分は3分の2です。直系尊属が複数人いる場合は、3分の1を取得し、各人で均等に分けます。父母が相続人になる場合、実父母や養父母は関係ありません。父母がいない場合に祖父母が相続人になります。
相続人:配偶者と直系尊属の例1
相続人:妻Aと被相続人の父母B・C 相続財産3,000万
| 妻A | 3,000万 × 3分の2 = 2,000万 |
| 被相続人の父B | 3,000万 × 6分の1 = 500万 |
| 被相続人の父C | 3,000万 × 6分の1 = 500万 |
相続人:配偶者と直系尊属の例2
相続人:妻Aと被相続人の父母B・C 相続財産3,000万
| 妻A | 3,000万 × 3分の2 = 2,000万 |
| 被相続人の父B | 3,000万 × 6分の1 = 500万 |
| 被相続人の母C | 3,000万 × 6分の1 = 500万 |
相続人:配偶者と兄弟姉妹
兄弟姉妹の相続分は4分の1、配偶者の相続分は4分の3です。兄弟姉妹が複数人いる場合は、全員で4分の1を取得し、各人で均等に分けます。父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1です。ここでいう父母には、養父母も含みます。実父母あるいは養父母のどちらかを同じくすれば、全血の兄弟姉妹となります。一方の実父母が他方の養父母である場合も同じです。
相続人:配偶者と兄弟姉妹の例1
相続人:妻Aと被相続人の兄B・妹C 相続財産3,000万
| 妻A | 3,000万 × 4分の3 = 2,250万 |
| 被相続人の兄B | 3,000万 × 8分の1 = 375万 |
| 被相続人の妹C | 3,000万 × 8分の1 = 375万 |
相続人:配偶者と兄弟姉妹の例2
相続人:妻Aと被相続人の兄B・被相続人とは異母の妹C 相続財産3,000万
| 妻A | 3,000万 × 4分の3 = 2,250万 |
| 被相続人の兄B | 3,000万 × 6分の1 = 500万 |
| 被相続人とは異母の妹C | 3,000万 × 12分の1 = 250万 |
法定相続分の問題
さまざまなパターンの法定相続分です。
被相続人に配偶者がなく、子、親、兄弟姉妹が相続人である場合、子、親、兄弟姉妹のそれぞれが相等しく均分した相続分になります。ただし、父母の一方のみが同じである兄弟姉妹の相続分は、父母どちらも同じである兄弟姉妹の相続分の2分の1です。
配偶者だけが相続人である場合、配偶者が相続財産のすべてを相続します。被相続人に、伯叔父母や従兄弟姉妹がいても配偶者だけが相続人になります。
身分関係が重複する場合の相続分
実親が嫡出でない子を養子としたり、あるいは祖父が孫を養子にする場合には、親子間または祖父と孫間という血縁関係があるうえに、養親子という法定血族関係が重複しています。また、配偶者の一方が、他方の父母の養子となった場合には、兄弟姉妹という血縁関係のほかに、配偶者という身分関係が重なっています。
このような場合に、相続が開始すると2つの身分を持つ相続人は、2つの地位に基づく相続が発生し、つまり二重相続になります。二重相続はケースによって問題が異なります。二重に相続したり、一方を相続したりと異なるということです。
重複する相続の例1
被相続人の長女の子(被相続人の孫)が、被相続人の養子である場合
長女が被相続人の死亡前に亡くなったとき、その子は養子としての相続分を当然に取得します。また、亡くなった母親の代襲相続人としての相続分も取得します。
重複する相続の例2
実親が非嫡出子を養子とした場合
親が死亡した場合、養子は非嫡出子の身分が消滅します。養子としての相続分のみを取得します。
重複する相続の例3
婿養子である夫が他方の父母の養子となった場合
養父母が亡くなった後、婿養子が亡くなり、実父母もすでに亡くなっていて、子どもがいない場合、妻は妻としての相続分のみを取得し、兄弟姉妹としての相続分は取得しないというのが実務の扱いです。つまり、妻の相続分と兄弟姉妹の相続分を重複しないという理解です。
法定相続分と登記
被相続人Aの共同相続人B・C
被相続人Aの相続財産である不動産を、Bが勝手にBの単独所有名義の登記をしたうえに、その不動産を第三者へ売却し、第三者の所有権移転登記をしました。この場合、共同相続人Cは、登記がなくても自己の相続した持分2分の1を第三者に主張することができます。これは、共同相続人Cの持分に関する限り、無権利の登記で、登記の公信力がないため、第三者も共同相続人Cの持ち分の権利を取得することができないと判例があります。
代襲相続人の相続分
相続人たるべき子または兄弟姉妹が、相続開始前に死亡したり、相続権を失ったりした場合に、その者の子または直系卑属(子・孫など)によって代襲されます。兄弟姉妹の代襲相続人は、直系卑属ではありません。兄弟姉妹の子すなわち、被相続人の甥姪です。
子の代襲相続人の相続分
子の代襲相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属に当たる被代襲者が承継する相続分と同様です。代襲相続は、被代襲者の死亡または相続欠格・廃除の相続権喪失によって、その直系卑属が不利益を受けないようにする規定です。したがって、代襲相続人の相続分は被代襲者が承継するべき相続分と同様であるべきとされました。
代襲相続人が一人の場合、その者は被代襲者の相続分をそのまま承継します。代襲相続人が複数人いる場合は、各自の相続分は被代襲者が承継するはずだった部分についての法定相続分を相続することになります。
特定の相続人が被相続人から生前に多額の贈与を受けていた場合、そのまま他の相続人と同じ割合で遺産を分けてしまうと、不公平な結果になりかねません。こうした不均衡を是正するために、特別受益という制度が設けられています。この制度は民法第903条に定められており、相続人の間で公平な相続が実現されるよう調整する仕組みです。
特別受益の相続分
第903条
1. 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2. 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3. 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4. 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
以下のように要約できます
- 相続人の中に、被相続人から 遺贈 または 特定の目的で贈与(婚姻・養子縁組・生計資本) を受けた者がいるときは、その贈与を相続財産に「持ち戻して」相続分を算出し、その贈与分を控除してその相続人の相続分を決める。
- もし贈与・遺贈の金額が、その相続分の金額と同じか超えていれば、その相続人は 相続財産からは何も受け取れない。
- ただし、被相続人がこれと異なる意志(贈与の持ち戻しをしない旨など)を表明していれば、その意思が尊重される。
- さらに、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、被相続人が他方に「居住用の建物または土地」を贈与・遺贈した場合は、特別受益にはあたらず、持ち戻しの対象外と推定される。
特定の相続人が生前に受けた利益を、相続財産とみなして一度全体に組み戻し、そこから各相続人の取り分を公平に計算し直すことで、相続人間の公平を図るのが本制度の目的です。遺産の総取りや二重取りを防止するための仕組みといえます。
特別受益の計算例
相続財産5,000万を遺し、夫Aが死亡
妻B、子C・Dが相続人で、子Dが500万の特別受益を受けていた
| 妻B | 2,500万円 |
| 子C | 1,250万円 |
| 子D | 1,250万円 |
通常の法定相続分
特別受益を受けていた子Dは、1,250万+500万で1,750万を取得したことになり、不公平感が生まれる可能性があります。不均等と感じる共同相続人がいるかもしれません。
このような場合に、特別受益500万を遺産5,000万に持ち戻して計算します。したがって、遺産を5,500万として計算するのです。
| 妻B | 2,750万円 |
| 子C | 1,375万円 |
| 子D | 1,375万円-500万円=875万円 |
特別受益を持ち戻して計算
これにより、相続人間の取得額のバランスが改善され、公平な遺産分割が図られます。
特別受益が相続分を超えた場合
民法第903条2項により、受けた特別受益の額が相続分と同じかそれ以上の場合、その相続人は相続財産を受け取れないことになります。
たとえば、被相続人の遺産が4,000万円のとき、妻Aと子Bが相続人で、子Bは生前に3,000万円の特別受益を受け取っていた場合、法定相続分は2分の1、つまり2,000万円になります。子Bは受け取った特別受益が相続分を超えているため、相続財産がゼロになるということになります。
被相続人が特別受益を持ち戻し対象にしないと意思表示をした場合
民法第903条3項により、被相続人が「特別受益の持ち戻しを免除する」という意思を明確にしていた場合には、その意思が尊重されます。
被相続人が「生前に贈与した特別受益を持ち戻し対象にしない」という遺言をしていたり、すでに贈与を受けた相続人に対してさらに遺産を相続させたいという意思表示をしていたりする場合は、その遺言が優先されます。しかし最低限担保される遺留分(最低限の取り分)は侵害されません。もし侵害している場合は、その侵害分は返還の対象となる可能性があります。
特別受益とは
相続人のうち特定の人が、被相続人から生前に特別に多くの財産(贈与や遺贈)を受け取っていた場合に、その分を相続財産に加えて、他の相続人との公平を図るための制度です。
特別受益とみなされる贈与
遺贈された財産
目的を問わずして、すべて特別受益財産として持ち戻しの対象になります。遺贈された財産は、相続開始の時点では相続財産に含まれているもので、贈与された財産のように加算する必要はありません。
たとえば、父が遺言で「長男にマンションを相続させる」と指定した場合、そのマンションは遺贈に該当し、特別受益となります。
婚姻、養子縁組のための贈与
特別受益財産の範囲に含まれます。持参金、支度金など、婚姻・養子縁組のための支度の費用が典型的なものです。結納金、挙式費用が、婚姻、養子縁組のための贈与に含まれるかについては争いがあります。挙式費用については、通常の挙式費用は含まれないとする考えが有力で、挙式は婚姻、また養子縁組をする当事者のためというよりも、親の社交上の出費という性質が強いことを理由とする見解があります。
たとえば、結婚する長女に対して、親が結婚資金として300万円を援助したり、新婚生活のために家具・家電を一式購入して贈った場合などが該当します。ほかには、被相続人が、養子縁組をするにあたって必要な準備金として、養子となる相続人にまとまった資金を渡した場合などです。
生計の資本となる贈与
これは特別受益のなかでも最も多くみられるケースです。
生計の資本としての贈与とは、子どもが独立する際に居住用の宅地を贈与したり、農家なら農地を贈与したりというのが典型的なものですが、これらに限らず、広く生計の基礎として役立つような財産上の給付が該当するとされています。
たとえば、マイホームの頭金や建築資金として1,000万円を援助したケース、事業資金として開業費を援助したケース、別荘を贈与したケースなどが挙げられます。
また、日本の教育水準をみても高校や大学の教育を、義務教育の場合に準じて考えることができると言えます。このような高等教育の費用は、被相続人の生前の資産収入や社会的地位から、その程度の教育をするのが普通であるという場合には、学費の支出は親の当然の扶養範囲として特別受益に該当はせず、それを超えた身分不相応な学費のみが特別受益となると考えられます。
学費のほかには、学生時代の生活費の仕送りです。仕送りも扶養義務の範囲とみなされ、特別受益に該当しません。
ほか、お年玉や誕生日のお祝いなどの贈り物や祝い金は、日常的な贈与にすぎず、特別受益とはされません。
借金の肩代わり
借金の肩代わりが特別受益とみなされるかどうかは、判断が分かれます。金額の規模や性質、他の相続人と比べての優遇度合い、生計の資本といえるのか、というポイントがあります。
単なる一時的な援助であれば、特別受益にあたらないとされます。数百万〜数千万というような多額の肩代わりであれば、生計の立て直しに直結し、さらには資産形成にも直結するとなれば特別受益とみなされます。
兄弟姉妹間の優遇度合いなど、他の兄弟姉妹には援助がないのに、一人だけ借金を親が全額返済していたというようなケースでは、不公平感が強く特別受益にあたる可能性が考えられます。
ほかにも、一人暮らしの子が急病で病院にかかり、親が子の医療費を立て替えたようなケースも特別受益にはあたらないでしょう。
特別受益とは
相続人のうち特定の人が、被相続人から生前に特別に多くの財産(贈与や遺贈)を受け取っていた場合に、その分を相続財産に加えて、他の相続人との公平を図るための制度です。
配偶者への居住用不動産の贈与・遺贈
夫が亡くなったあと、妻(配偶者)がその家に住み続けられるかどうか非常に大きな問題です。もし、その自宅が相続財産の一部とされてしまうと、他の相続人との分割の対象となり、妻が住む家を手放すリスクが出てきてしまいます。
そこで民法は903条4項を2018年改正において新設しました。
ちなみに、改正前は、居住不動産を贈与した場合、遺産を先に渡し受けたものとして扱われていました。
民法903条4項
婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
本条は、条件をすべて満たすと、法律上「特別受益の持ち戻しを免除したとみなされる(推定される)」という扱いになるということです。
| ① 婚姻期間 | 20年以上の夫婦であること |
| ② 行為者 | 被相続人(通常は夫)が |
| ③ 贈与・遺贈の対象 | 配偶者(通常は妻)に対して |
| ④ 対象財産 | 居住用の建物またはその敷地を、贈与または遺贈した場合 |
この条件に当てはまると、たとえ遺言で明示していなくても、居住不動産の贈与は他の相続人と相続分を調整する必要はない、と推定されるということです。
通常、特別受益に該当する贈与や遺贈は、相続分を計算するときに持ち戻すことになります。しかしこの特例が適用されると、配偶者がもらった居住不動産やその土地は相続財産にカウントされず、さらに他の相続人が「不公平だ」と主張しても民法が保護してくれるのです。
たとえば年金で暮らしている夫婦において、夫が先立ち、残された妻がいきなり住まいを失くすということが避けられるわけです。
居住不動産の誤解
別荘は居住不動産ではありません。生前に暮らしていた居住不動産が対象です。
ほかには、居住兼店舗もありえます。不動産のうちのごく一部が店舗である場合は居住用不動産と判断されることが多いといえますが、店舗と居住部分が明確に別れているようであれば居住建物部分についてのみ適用する可能性もあります。
遺言で明確にしておくとなおよい
この特例はあくまでも推定されるという点に注意が必要です。民法が保護してくれる、という表現をしましたが、もし他の相続人から反論された場合の争いを想定することも忘れてはいけません。推定が覆される可能性があります。
そのため、実務では被相続人が遺言をする際に、居住不動産について明確にしておくことが望ましいとされています。
相続の場面で、「長男が親の介護を何年もしてきたのに、他の兄弟と全く同じ相続分でいいのか」といった不公平感が生まれることがあります。これを是正するために設けられているのが「寄与分(きよぶん)」という制度です。
寄与分とは、共同相続人の中で、被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした者がいれば、その貢献に見合った分を他の相続人より多く相続できるようにする仕組みです。民法904条の2に定められています。
民法904条の2
1.共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2.前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3.寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4.第2項の請求は、第907条第2項の規定による請求があった場合又は第910条に規定する場合にすることができる。
寄与分の趣旨と考え方
寄与分制度の目的は、特別な貢献をした相続人と、そうでない相続人の間に生じる不公平を是正することにあります。法定相続分はあくまで形式的な取り分であり、そこに「現実の貢献」という実態を加味することで、より公平な遺産分割を目指すのです。
たとえば、ある相続人が長年にわたり被相続人の介護をし、施設に入れることなく看取った場合、他の相続人と同じ取り分では不公平です。寄与分制度を使えば、その人の努力を金銭的に評価し、取り分を上乗せすることが可能になります。
寄与分の対象となる貢献
民法第904条の2は、以下のような行為を寄与の対象としています。
- 被相続人の事業に関する労務の提供
- 被相続人の財産管理への貢献
- 被相続人の療養看護、生活支援
- その他、財産の維持や増加に対して特別な寄与をしたと認められる行為
これらはいずれも「特別な寄与」である必要があります。つまり、単なる親子間の通常の扶養義務の範囲を超えており、継続的かつ無償で、被相続人の財産に影響を与えるほどの貢献であることが求められます。
寄与分の計算方法と実例
寄与分の評価は簡単ではありませんが、基本的には、被相続人の財産のうち、寄与によって維持または増加したと考えられる金額を算定します。
たとえば、被相続人の遺産が1億円、相続人はA・B・Cの3人で、法定相続分はそれぞれが三分の1。相続人Aは長年の介護と財産管理をしており、寄与分2,000万円と評価された場合の例です。
この場合、遺産からまず2,000万円を引いた「8,000万円」を相続財産として、BとCの相続分を三分の1ずつにします。Aについては、寄与分2,000万円を加えた合計で相続します。
- A:2,000万円(寄与分)+8,000万円 × 1/3 =4,666万円
- B・C:8,000万円 × 1/3 =2,666万円ずつ
このように、Aの貢献が具体的な取り分の差となって反映されます。
遺言との関係・遺留分との調整
寄与分は、法定相続人間の公平の調整を目的とした制度です。一方、被相続人の意思による「遺言」がある場合や、「遺留分(最低限の取り分)」との関係も問題になります。
遺言で特定の相続人に多く遺すとされていたとしても、他の相続人から寄与分の主張があれば、それに応じて分配割合が見直される可能性があります。ただし、寄与分の評価が遺留分に抵触する場合には、寄与分の額が調整されることがあります。
遺産分割協議では、寄与分があるかどうかが大きな争点になることも多いため、実際には法的知識と交渉力が求められます。
寄与分を認めてもらうには
寄与分を主張するには、まず他の相続人との協議で合意を目指します。協議が整えば、寄与分を加味した遺産分割が可能です。
しかし、話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所に調停または審判を申し立て、寄与の内容や金額を認定してもらう必要があります。裁判所は、具体的な資料(介護記録、銀行取引履歴、証言など)を元に総合的に判断します。
審判により寄与分が認定されると、遺産分割において正式にその分を考慮した形で分配が行われます。
寄与分の法的性質と限界
寄与分は「具体的相続分の調整」にすぎず、寄与分があったからといって新たに財産を創出するわけではありません。また、寄与があっても、必ずしも評価されるとは限らず、証拠や合理的な主張が求められます。
また、他の相続人の利益を過度に害することのないよう、調整には慎重な判断が求められます。寄与分が認められたとしても、その評価額が過大であれば、遺留分を侵害することになり、別途「遺留分侵害額請求」が発生することもあります。
民法第905条では、「相続分の取戻権」について定めています。これは、共同相続人のうち一人が自分の相続分を、遺産分割が完了する前に無断で第三者に譲渡してしまった場合に、他の相続人がその持分を買い戻す(取り戻す)ことができるという制度です。
民法905条
1.共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
2.前項の権利は、1箇月以内に行使しなければならない。
この制度は、相続の公平と秩序を守るために設けられており、相続人以外の第三者が勝手に相続に介入することを防ぐ役割を果たします。
制度の仕組み
民法905条1項
共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
つまり、遺産分割がまだ行われていない段階で、A相続人が自分の相続分を第三者に売ってしまった場合、他の相続人(BやCなど)はその分をお金で買い戻せるということです。この「買い戻し」の権利を「相続分の取戻権」といいます。
この制度が必要とされる背景には、相続人以外の第三者が、相続人の持分を取得することで相続関係が複雑化し、遺産分割協議が困難になるという問題があります。
たとえば、不動産や事業などが遺産に含まれていた場合、その持分が突然、関係のない第三者に渡ることで、相続人間の信頼関係が崩れたり、交渉が進まなくなったりします。こうした事態を防ぎ、相続人の間で円満かつ実質的な遺産分割が行われるようにするのが、取戻権の制度趣旨です。
取戻権を行使するための条件
相続分の取戻権を行使するためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
- 譲渡が、他の共同相続人の同意なく行われたこと
複数人の相続人が協議のうえ合意して譲渡した場合には取戻権は行使できません。
- 譲渡の相手が、共同相続人以外の第三者であること
他の相続人に譲った場合は問題ないとされます。
- 遺産分割前であること
遺産分割が完了していれば、各相続人の取得分は確定しているため、取戻権の対象にはなりません。
行使の方法と期限
民法905条2項により、取戻権の行使は「譲渡の事実を知ってから1か月以内」に行わなければならないとされています。
この「1か月」という短い期間は、譲渡された相続分が速やかに他人の手に渡り続けてしまう事態を防ぐために設けられています。権利を行使するには、相続人が譲渡された持分の「価額および費用」を第三者に支払い、その持分を法的に自らのものとする手続をとる必要があります。
なお、この取戻権は「形成権」とされており、相手方の同意がなくても一方的に行使することが可能です。したがって、譲受人が拒否しても、法律上は相続分が戻ることになります。
取戻権の対象は「全体の割合的持分」に限る
905条の取戻権は、相続分という「遺産全体に対する持分」に対してのみ認められます。たとえば、「父の遺産のうち、〇〇土地だけを第三者に譲渡した」というようなケースでは、本条は適用されず、相続分の取戻権を使って回復することはできません。
なぜなら、相続分とは本来「財産全体に対する割合的権利」であり、個別の財産についての権利ではないためです。
行使の効果と帰属
取戻権が適法に行使されると、その譲渡された相続分は、他の共同相続人のうち行使した者に移転します。たとえば、Aが第三者Xに持分を譲渡し、Bが取戻権を行使した場合、Bがその分を取得したことになります。
このとき、譲受人Xと譲渡人Aの間には、すでに代金などの支払いが行われていることもありますが、Bが価額と費用を償還することで、Xからの所有権取得は否定され、相続人Bが優先的に取得することになります。
相続ガイド相続・遺言・相続放棄を分かりやすく解説
相続・遺言・相続放棄について、分かりやすく解説した「相続ガイド」です。
民法における相続のルールを、条文をもとに解説しています。
気になるキーワードで検索をして、お求めの解説を探せます。
当サイトの相続ガイドは、掲載日時点における法令等に基づき解説しております。掲載後に法令の改正等があった場合はご容赦ください。