高齢化社会が進む今日、相続対策は亡くなったあとの財産分けだけではなくなっています。認知症によって預金口座が凍結され、家族が生活費や介護費用を引き出せなくなることもあります(金融機関は、認知症によって判断能力が低下すると、詐欺被害に遭いやすくなるリスクを考慮して口座を凍結する措置をとることがあります)。
また、相続がはじまった後も、口座の資金が動かせないことで葬儀費用を立て替えらなれなかったり、当面の生活費に困ったり、高齢の配偶者だけではさまざまな手続きが進まないという問題が起こりえます。
このようなとき、生命保険は単なる死亡時の保障ではなく、相続対策として非常に有効な役割を果たします。
認知症になると預金を引き出せなくなることがある
高齢者の相続対策を考えるうえで、まず知っておきたいのが預金凍結の問題です。
銀行は、口座名義人が認知症になり、判断能力が低下していると判断した場合、詐欺や不正利用防止の観点から預金の引き出しを制限することがあります。
たとえば、窓口で会話が成立しない、本人確認が難しい、家族が代わりに来ている、突然大きな金額を動かそうとしている、などの場合、金融機関が慎重な対応をとることがあります。
さらに死亡後には、原則として口座が凍結されます。
その結果、介護施設への支払いや医療費、葬儀費用、配偶者の当面の生活費などに困るケースも少なくないのです。
老老相続では、残された配偶者も高齢であることが大半であるため、預金凍結による影響は非常に大きくなります。
生命保険は遺産分割の対象にならない
生命保険が相続対策として注目される理由のひとつが、死亡保険金は原則として受取人固有の財産と考えられている点です。通常、預金や不動産などは相続財産として遺産分割協議の対象になります。
しかし、生命保険金は「誰が受け取るか」が契約によって決まっているため、原則として遺産分割協議の対象になりません。
たとえば、妻を受取人に指定したり、長男を受取人に指定したりなど、あらかじめ契約で定めておけば、その受取人が直接保険金を受け取ることができます。
これは、相続人間で話し合いがまとまらない場合でも、一定の財産を速やかに確保できるという大きなメリットがあります。
生命保険金は受取人が単独で請求できる
相続手続では、金融機関や証券会社で相続人全員の署名、実印、印鑑証明書などが求められることが多いのですが、相続人の一人でも協力しなければ手続きが止まってしまうことがあります。いつまでも口座を解約することができず、財産が凍結されたままになってしまいます。
一方、生命保険金は、受取人が単独で保険会社に請求できる仕組みになっています。
つまり、他の相続人の同意がなくても受け取れる可能性が高く、相続手続の初期段階で非常に助けになることがあります。
葬儀費用や当面の生活費に充てやすい
被相続人が亡くなると、すぐにまとまった支出が発生します。
- 葬儀費用
- 火葬費用
- 寺院関係費用
- 入院費
- 施設利用料
一例ですが、多くの場合は上記の支払いがすぐに発生するでしょう。
ところが、支払いをしたいときに、預金口座は凍結されている可能性があり、すぐにはお金を使えないことがあります。
その点、生命保険金は比較的早く支払われるケースが多く、葬儀費用や生活費に充てやすいという特徴があります。近年では、一部の保険会社で即日支払サービスを行っているところもあります。
必要書類が揃えば、短期間で保険金を受け取れる場合もあり、高齢の配偶者にとって大きな安心につながります。
老老相続では、相続人も高齢であったり、判断能力に不安があったり、相続人が近くにいないことも多いことから、通常の相続以上に問題が複雑になりやすい傾向があります。
そのため、相続開始後すぐに使える資金をどう確保するかは非常に重要です。
不動産が多く現金が少ない家庭では、相続がはじまってもすぐには換金できず、生活費に困るケースもあります。生命保険を活用しておけば、残された配偶者の当面の生活費や介護費用を確保しやすくなります。
生命保険は相続トラブル対策にも
相続では、誰がどれだけ受け取るのかをめぐって感情的な対立が起こることがあります。
同居していた人、面倒をみていた人、疎遠だった人などがいる場合に不公平感が生まれやすく、紛争に発展することもあります。
そのようなときに、「妻には生活資金として生命保険を残しておく」というかたちをとると、高齢の配偶者の生活保障を優先しやすくなります。
また、預金や不動産とは別に生命保険を用意しておくことで、遺産分割の調整材料になることもあります。さらに、生命保険金は特段の事情がない限り、特別受益の対象とならないことも大きな特徴です。
「保険」も相続対策の重要な選択肢
相続対策というと、遺言書や家族信託、生前贈与などに焦点がいきます。
しかし生命保険には、以下のような特徴があり、高齢化社会において非常に相性のよい制度です。
- 受取人を指定できる
- 比較的早く現金化できる
- 単独請求できる
- 遺産分割の対象外になりやすい
特に老老相続では、残された高齢配偶者の生活をどう守るかという点も重要な課題ですから、生命保険は、そのための有力な選択肢のひとつといえるでしょう。
