相続人の中に認知症の方がいる場合、相続手続きは複雑になることがあります。
遺産分割協議を行うためには相続人全員の参加が必要であり、認知症によって判断能力が失われている相続人がいる場合には、成年後見制度の利用も視野に入れなければなりません。
しかし、相続対策として遺言書を作成しておけば、このような問題を大幅に軽減できる場合があります。
遺産分割協議が不要になる場合がある
相続手続きで大きな負担となるのが遺産分割協議です。遺産分割協議では、誰が不動産を取得するのか、誰が預貯金を取得するのか、どのような割合で財産を分けるのかを相続人全員で話し合う必要があります。
そのため、相続人の一人でも判断能力が不十分であれば、手続きを進めることが難しくなります。
一方で、遺言書によって財産の承継先が明確に指定されている場合には、その内容にしたがって相続手続きを進められることがあります。
もちろん遺言の内容や財産の種類によって必要書類は異なりますが、少なくとも「誰が何を相続するのか」を改めて協議する必要がなくなるため、相続人に認知症の方がいる場合には非常に大きな意味を持ちます。
成年後見人の選任を避けられることがある
認知症の相続人がいる状態で遺産分割協議をする場合には、成年後見人の選任が必要になることがあります。
しかし成年後見人の選任には、家庭裁判所への申立て、必要書類の収集、審理や調査などが必要となります。
また、申立てから選任まで一定の期間を要するため、その間は相続手続きを進めることができません。
さらに、成年後見人は本人の利益を守る立場にあります。家族が望む内容と後見人の判断が一致するとは限らず、相続手続きが想定どおりに進まないこともあります。
その点、遺言書によって財産の承継先が明確に定められていれば、成年後見制度を利用せずに手続きを進められる場面もあります。高齢化が進む現在では、この点も遺言書の重要な役割の一つといえるでしょう。
相続手続きの長期化を防ぐことができる
相続人の中に認知症の方がいる場合、成年後見人の選任を待つ、後見人との協議をする、家庭裁判所の手続きが必要になるといった事情により、相続開始から何か月も手続きが進まないことがあります。
その間、不動産の売却ができませんし、相続登記も進みませんし、預貯金の解約ができません。このような問題が生じることがありますが、遺言書によって承継方法が明確になっていれば、こうした手続き上の負担を軽減できる可能性があります。
障害のある子どもがいる家庭でも遺言は重要
相続人のなかに、知的障害や精神障害があり判断能力に不安がある方がいる場合もあります。十分な判断能力がない方が相続人にいても、相続開始後には遺産分割協議をしなければなりませんから、成年後見制度を利用する可能性があります。
一方で、遺言書によって財産の承継方法を定めておけば、相続開始後の手続きが円滑になることがあります。特に障害のある子どもがいる家庭では、親亡き後の生活を見据えた準備が重要ですから、その意味でも遺言書は単なる財産分配の手段ではなく、家族の将来を支えるための大切な準備といえます。
遺留分への配慮は必要
遺言を遺しておけば、すべての問題が解決するわけではありません。他の相続人には遺留分が認められる場合があるため、「すべての財産を長男に相続させる」と遺言をしても遺留分を有する相続人は、一定の範囲で金銭による請求をすることができます。
そのため、遺言書を作成する際には、相続人の状況、家族関係、財産の内容などを踏まえて検討しなければなりません。単に「誰に財産を渡したいか」だけでなく、「相続開始後にどのような問題が起こるか」という視点から考えることも重要になります。
何より重要なのは認知症になる前の対策
認知症の問題で最も難しいのは、判断能力が低下してからでは選択肢が大きく制限されることです。
何度も申し上げますが、本人が元気なうちは、遺言書を作成すること、財産の整理をすること、家族と話し合うこと、といった準備を進めることができます。
しかし、認知症が進行して判断能力を失ってしまうと、新たに有効な遺言書を作成することは困難になります。
遺言書は財産を分けるためだけでなく、相続人の負担を減らし、認知症や判断能力の問題によって相続手続きが停滞することを防ぐための有効な手段でもあるのです。
